半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナー

AI要約

半導体TSMCの進出により、熊本県菊陽町の地価が急上昇し、2位の上昇率を記録した。TSMCの進出による経済効果や人口増加による住宅不足など、地域の様子が注目されている。

菊陽町は肥沃な土地と水源を有し、農業都市として知られる。人口は50年間で急増し、住宅地の不足が深刻化しているが、市街化調整区域が広く、土地の転用が難しい状況にある。

地価の爆上げにより、不動産取引が活発化し、賃料の値上げや店舗の移転が相次いでいる。相続税の問題も浮上しており、地価上昇からくる課題への対策が求められている。

半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナー

 半導体TSMCの進出によって路線価が全国2位の上昇率となった熊本県菊陽町。地価が高騰する一帯には、どんな変化が起きているのか。また、あまりに急な変化で問題は発生していないのか。現地を歩いて様子をリポートする。(ライター 宮武和多哉)

● 半導体TSMC進出で 熊本県菊陽町の地価が爆上がり

 相続税などの算定の基準となる土地の価格、「路線価」が7月1日に公表され、熊本県菊陽町光の森の「県道住吉熊本線」が前年から24%上昇し、全国2位の上昇率となった。熊本県菊陽町といえば、半導体の受託製造で世界最大手の、台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設した場所だ。

 折しも7月8日のニューヨーク株式市場でTSMCの時価総額が一時、1兆ドル(約160兆円)を突破した。米アップルやエヌビディアに重要な半導体を供給するサプライヤーとして、TSMCは人工知能(AI)に投資する世界の投資家から選好されている、と海外メディアが伝えている。

 

 TSMCの子会社JASM熊本工場では、建設中の第2工場も含めて約3400人の雇用を予定する。TSMCの熊本進出をきっかけに、九州全体が「半導体バブル」に沸いている。九州経済調査協会は、半導体関連の設備投資が九州7県と山口、沖縄両県に与える経済効果について10年で計約20兆円と推計する。

 路線価の話に戻ると、前年から20~30%の上昇といえば、1980年代後半からのバブル経済期でいう、東京都区内の伸び率に匹敵する。これほど地価が高騰する熊本県菊陽町やその一帯には、どんな変化が起きているのか。また、あまりに急な変化で問題は発生していないのか。現地を歩いて様子をリポートする。

● 実はもう50年間も人口増加中 菊陽町の悩み「住宅地がない!」

 熊本県菊陽町は、東京都内なら葛飾区と同等の広さ(37平方km)に、約2万世帯、4.4万人が住んでいる。

 この地はもともと、肥沃な土と豊富な水がある農業都市だった。江戸時代初期に肥後国を統治した加藤清正公が、「鼻ぐり井手」(水流に障害物を当てて火山灰を沈殿させる水路)を築造したことで作物の収穫量が数倍に伸びたことで知られる。現代では、西洋人参やスイートコーンが全国有数の生産量を誇る。

 もう1つの特徴が、熊本市から鉄道あるいは自動車(国道57号・菊陽バイパス経由)で30分前後という絶好の立地であり、直近の50年間では、武蔵ケ丘や光の森といった大規模団地の造成が相次いだ。50年前は1万人程度だった人口は、今では4.4万人にまで増えた。なお、2010年の国勢調査では、全国で4番目となる「増加率16.3%」 を記録している。

 一方で、農業都市であるがゆえに、面積の8割を「市街化調整区域」(市街化を抑制する地域。住宅や商業施設などの建築が原則、認められていないエリア)が占め、残り2割の土地は50年間も人口急増が続いている。地価高騰の原因は単純に「暮らす場所が足りない」ことで、TMSC進出によってマンションが数軒建った程度では、全く間に合っていない。面積の8割を占める農地を転用するにしても、農用地区域内(青地)などは宅地転用が原則禁止されており、転用できたとしても数年待ちだ。

 また、一般的に土地取引は公示価格より高く取引されるため、限られた物件の実勢価格が、TSMCが進出する前の数倍にも上る事態が起きている。物件の売却とオーナー交代で賃料が値上げとなり、そのまま退店・移転 を余儀なくされるようなケースも増えているという。爆上がりする地価は、今後は固定資産税にも、ボディーブローのように効いてきそうだ。

 特に入居開始から半世紀も経った武蔵ケ丘や光の森は、明らかに古びた戸建て住宅が多く、相続が増加することが予想される。親から実家を相続した子が、相続税の高さに目を白黒させてしまうかもしれない。一部報道によると、TSMCの2つの工場が日本に約8400億円の税収効果をもたらすと試算されているようだが、その税収増を活用してでも、地価上昇からくる弊害への緩和措置を打った方が良いのではないか。