衰退ニッポンを「世代交代の起こりやすい社会」に変えるための「たったひとつの方法」

AI要約

日本の少子高齢化問題とそれがもたらす影響について、特に企業経営に焦点を当てて解説されている。

若者が組織内でのキャリア形成に不安を感じ、早期に退職する傾向があり、企業の高年齢化が進むことで組織の硬直化が加速している。

経営者の高齢化が企業業績の低下につながるデータも示され、経営判断を速やかに行う必要性が強調されている。

衰退ニッポンを「世代交代の起こりやすい社会」に変えるための「たったひとつの方法」

 人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。

 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

 第2の切り札は、「飛び入学」制度の導入だ。といっても、単に早く進学できるようにしようといったことではない。第1の切り札と同様に、世代交代を促す起爆剤として期待するものである。

 日本社会は長く「長幼の序」が美徳とされてきた。それ自体を否定するつもりはないが、さまざまな組織や社会における倫理観として影響を与え続け、多くの企業においては「年功序列」となって、組織に長く所属する年上社員の発言力が強まる傾向を生んでいる。いくら優秀でも、「年齢が若い」というだけで企画や提案が採用されないといったケースは珍しくない。

 少子高齢化に伴って企業組織の高年齢化が進むほど、組織の硬直化も進む。それは優秀な若者にとっては"息苦しさ"でしかない。

 組織の理論を受け入れて、企画や提案が採用されるようになるまで出世を待ち続けていたのではいたずらに歳を取ってしまう。こうした不安に苛まれて、優秀な人材ほど若くともチャンスを得られる新天地に飛び出すこととなる。入社3年で辞めてしまう若者が後を絶たない理由の一端がここにある。硬直化した企業に早々に"見切り"をつけている人が相当数含まれているのだ。希望に満ち溢れて入社した若者がこうした理由で去るのは、実にもったいないことである。

 企業内におけるこんな「社会の老化」は、経営陣にも当てはまる。同族企業でなければ、社長に上り詰めるには出世の順番待ちをせざるを得ず、念願かなってやっと就任できた時には60歳を超えているという事例は少なくない。取締役など経営幹部も同じことだ。

 東京商工リサーチによれば、2019年末時点において全国の社長の平均年齢は前年より0・43歳伸びて62・16歳となった。調査を開始した2009年以降で最高齢だ。このうち70歳以上は30・37%で、初めて30%台を記録した。

 問題なのは、社長の年齢が上昇するにつれて、企業業績の悪化傾向がみられることである。社長の年齢区分別の業績を比較すると、「増収」は30代以下が58・67%と最も高く、年齢が上がるにつれて割合は減少していく。60代は47・60%、70代以上は42・55%にとどまる。一方、70代以上は「赤字」が20・54%、「連続赤字」は10・53%で、いずれも全年齢で最も大きい数字だ。世代交代の重要性を示すデータである。

 中小企業の場合、社長が高齢で事業承継の目途が立たないとなると、設備投資の停滞や社員採用を手控え、事業が縮小し、業績の低迷を招く傾向にあるのだ。

 事業承継問題と無縁の企業であっても、高齢になるほど世の中の情勢を捉える力が弱り、判断力が鈍りがちとなる。組織決定に時間がかかり過ぎて、ビジネスチャンスそのものを逃すことにもなりかねない。

 もちろんすべての高齢者がそうであるわけではない。先述した政治家と同様で、優秀な経営者であれば年齢など関係ない。しかしながら、今後は少子高齢化、人口減少という"未知の領域"のただ中で、経営判断を下し続けなければならなくなる。あまりにも社会の動きが速すぎて、経験則が通用しない時代に突入していく。

 "未知の領域"に挑む気力、体力に乏しい人物がトップの座に居座り続け、過去の成功体験に固執した経営をするなら、残念ではあるが、会社組織全体にとって害悪でしかない。

 早くから、将来の経営者となる次世代のリーダーを育成し、早め早めにバトンをリレーしていかなければ、日本企業は国際競争において勝ち残れないであろう。企業経営の若返りこそ、「社会の老化」を跳ね返す力強い手段となる。