この国の医療はどうなってしまうのか…救急搬送率が75歳以上になると跳ね上がる現実

AI要約

日本の医療制度が人口減少や高齢化による変化に対応できないことが明らかになった。自由な病院経営は有事において障害となる一方、地域医療構想が遅々として進まない問題も浮き彫りになっている。

コロナ禍を契機に、重症患者に対応できる治療設備や医療従事者を大病院に集中配置し、中規模や小規模病院はそれぞれの役割に徹する必要がある。少子化で若い医師が減少する中、医療界全体での変革が急務となっている。

医療の質を維持し、本当の意味での「医療崩壊」を防ぐために、地域医療構想の推進や勤務医の労働環境改善が重要である。

この国の医療はどうなってしまうのか…救急搬送率が75歳以上になると跳ね上がる現実

 人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。

 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

 コロナ禍があぶり出した医療提供体制の脆弱さだが、日本では医療機関が自由開業制になっているところに根本的な要因がある。経営の自由があるため、地域の医療ニーズの動向とは無関係に、小さな病院が薄く広く各地に点在する形となったのだ。それは、日本が誇る世界一の医療アクセスの良さを実現してきたというメリットでもあるが、感染症が爆発的に拡大する局面にあっては裏目に出たということである。

 病院経営に自由があること自体が悪いわけではない。だが、それぞれに経営方針があるため、社会の急激な変化に対応しきれない。コロナ禍のような有事にあっては、医療機関が極めて公的な存在であるがゆえ、自由な経営は社会全体の中で障害となる。

先述した人口減少と高齢化という激変に対しても、病院経営の自由は限界が見え始めていた。地域ごとに病院間で役割分担と連携を図らざるを得ないということは、「コロナ前」からの懸案事項であったのだ。

 そうでなくとも、軽症者の大病院受診や、平均在院日数(入院日数)の長さ、あるいは、十分な医療体制を整えていない病院が、高度な治療を施す急性期病床を名乗って高い医療費を受け取る「なんちゃって急性期」病床の是正などといった問題の解消策として、病院間の徹底した役割分担の必要性は指摘されてきた。

 医療人材だけでなく、地域によっては患者数の確保も難しくなっていく人口減少時代にあって、薄く広く小さな病院が点在するという非効率な運用を持続させていくことはもはや難しい。コロナ禍は、医療資源の散在が低密度医療という弱点となったことを明確化し、民間病院経営者にとって厳しい現実を突き付けたのである。

 高齢化による疾病構造の変化に伴って医療需要の質や量が変化することを踏まえ、厚労省は地域医療構想を打ち立て、2025年には2019年に比べて高度急性期と急性期の病床を18万床減らし、回復期病床を19万床増やす必要があるとした試算をまとめていた。

 爆発的な感染症を経験した今、試算の若干の見直しは必要だろうが、地域の中で限られた医療資源を効果的に活用するには重症患者に対応できる治療設備や、それを使いこなせる医療従事者を大病院に集中配置することは不可避だ。中規模病院や小規模病院はそれぞれの役割に応じて重症ではない患者や後方支援に回ることが求められる日本医療が誇る世界一のフリーアクセスは、かかりつけ医たる診療所が担えばよい。

 地域医療構想が遅々として進んでこなかった背景には、民間医療機関同士の利害とメンツのぶつかり合いがあった。だが、少子化で若い医師が減っていくことを考えれば、勤務医の長時間労働の是正も緊急の課題である。コロナ禍をきっかけとして医療界が変わらなければ、医療の質は維持できなくなり、本当の意味での「医療崩壊」が起きることとなる。