意外と知らない、コロナ禍の日本で「病床不足」が起きたのか「厳しすぎる現実」

AI要約

日本の人口減少が進む中、コロナ禍が医療提供体制の脆弱さを露呈しました。高齢化による病床不足や疾病構造の変化、地域医療の再編が求められるなか、時代遅れの医療制度が問題を引き起こしています。

2021年の緊急事態宣言時には、使用されていない病床が増加しているにもかかわらず、患者が入院先を見つけられないという混乱が生じました。これは全国的な現象であり、医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。

日本の医療体制が逼迫する中、地域医療の再編や効率化が喫緊の課題となっています。病床の再配分や適切な役割分担、そして将来の医療への備えが必要とされています。

意外と知らない、コロナ禍の日本で「病床不足」が起きたのか「厳しすぎる現実」

 人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。

 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

 コロナ禍は、医療提供体制の脆弱さも明らかにした。新型コロナウイルス感染症の人口当たりの感染者数が英国や米国などの10分の1以下だったにもかかわらず、病床が足りなくなるという、世にも不思議なことが起きたのである。病床不足は、繰り返し緊急事態宣言が繰り返し発出される事態を招いた。

 病床の不足といえば、「コロナ前」から団塊世代が75歳以上人口となり、患者数の激増が予想される2024年以降の懸念材料となっていた。コロナ禍が先回りして2024年以降の医療現場をわれわれに突き付けたということである。

 感染症には短期間に患者が激増するという特殊性はあるが、そうした要因を除いても日本は人口当たりの病院数、病床数が先進各国の中で突出して多い。なぜ、そんな日本で病床不足が現実のものとなったのだろうか? 

 それは、病床数こそ多いものの、重症患者を診るには医療体制が不十分であったり、病院同士の役割分担が不明確だったりしているためだ。しかも、認知症患者も入院する精神病床が病床数を押し上げているという要素もある。

 高齢化に伴って疾病構造が変化していくこともあり、地域ごとの病院の再編は「コロナ前」から求められていた。医療提供体制の脆弱さもまた、コロナ禍が見せつけた「積年の宿題」であったのだ。もう少し早く地域医療構想に基づく病床の再編が実現していたら、こうも簡単に医療が逼迫する事態とはならなかったであろう。

 実際に何が起きていたのかを見てみよう。財務省の資料によれば、2021年1月に緊急事態宣言が発出された東京圏では、2020年末時点で療養病床などを除いた一般病床の使用率は低下していた。つまり、使用されていない病床の割合が増えていたにもかかわらず、入院先が決まらない患者が増加した。東京都では2021年1月17日現在、最大7700人を超した。

 これは東京圏だけでない。全国の病床使用率は2020年12月末時点で、一般病床と感染症病床を合わせた88万9788床のうち、使用されていた病床は58・1%にあたる51万6975床にとどまり、残る41・9%の37万2813床は使用されていなかったのだ。

 驚くことに、「コロナ前」の2019年12月の病床使用率は62%であり、医療提供体制の逼迫が叫ばれながらも、むしろ低下していたのである。