スターリンが強制移住させた「高麗人」を呼び戻す韓国“消滅危機都市” 画期的な少子高齢化対策は吉と出るのか

AI要約

韓国の地方都市・堤川が少子高齢化に苦しむ状況から抜け出すため、旧ソ連領に住む朝鮮人を誘致し始めている。

市長の取り組みにより、堤川に住む朝鮮人たちは活気を取り戻し、移住者の受け入れ側ともポジティブな変化が見られている。

この取り組みにより、街の経済活性化や若返りが見込まれるが、韓国社会全体の移民労働者に対する課題も浮き彫りになっている。

スターリンが強制移住させた「高麗人」を呼び戻す韓国“消滅危機都市” 画期的な少子高齢化対策は吉と出るのか

日本と同様、少子高齢化に苦しむ韓国の地方都市・堤川が、朝鮮半島にルーツを持つ旧ソ連領への移住者「高麗人」を誘致しはじめた。受け入れ側と移住者の双方が、この興味深い取り組みの課題とポジティブな変化を米紙「ニューヨーク・タイムズ」に語っている。

キム・チャンギュは韓国内陸部の都市・堤川(チェチョン)の出身だ。市長として40年ぶりに戻ってきたとき、「故郷が消滅の危機にある」と感じた。

十数校もの学校が廃校になり、映画館もひとつなくなった。近隣の鉱山も次々と閉鎖され、主要産業だったセメント業も衰退した。

人口13万人の街の中心部には空き店舗が目立ち、経営者たちは労働者の確保に悩まされている。

韓国の他の多くの地方都市と同様、堤川は急速に進む少子高齢化に頭を痛めている。過疎化が進む他の都市は、新婚夫婦に補助金を支給したり、学齢期の子供がいる家庭に住居を無償で提供したりといった対策を打ち出す。

だが、元外交官のキムが目をつけたのは、はるか遠くの中央アジアとそこに100年近く暮らす推定50万人の朝鮮人、いわゆる「高麗人」だった。もし彼らを堤川に誘致できれば、街を救えるのではないかと考えたのだ。

旧ソ連領に暮らす高麗人の先祖は100年以上前に朝鮮半島を離れ、シベリア東端へと移住した。だが、こうした朝鮮人が日本軍のスパイになることを懸念したスターリンは、1937年に彼らを現在のウズベキスタンやカザフスタン、キルギスへと強制的に移住させた。

韓国は血縁関係を重んじる国だ。たとえ言語や歴史的なつながりは薄れていても、高麗人のほうが他国からの移民よりも受け入れられやすいに違いない──キムはそう期待した。

「彼らは優れた人材で、家族も同然です」と彼は言う。

市長の願いを背負った移住者は、かつて大学寮だった場所に2023年から住みはじめている。彼らを訪ねると、韓国風の刀削麺やキムチの昼食を囲みながら、ロシア語で談笑していた。妊娠8ヵ月の母親は、中央アジアの国民食である馬肉が恋しいと話す。

大学生がいない学生寮は、高麗人の家族が移り住んだことで活気を取り戻していた。玄関先にはベビーカーやチャイルドシートが置かれ、女の子がピンクのキックボードで廊下を走り回っている。

キムが高麗人と初めて会ったのはソ連崩壊後の1993年、カザフスタンに外交官として赴任していたときだった。2022年に市長に就任して以来、彼は堤川への移住者を募るために中央アジアを訪れている。

堤川には約130人の高麗人が移住しているが、その大半は以前から韓国の他の地域に住んでいた人たちだ。さらに150人以上が堤川への移住を申請しているという。高麗人が出稼ぎ労働者として、韓国に移住しはじめたのは10年ほど前からだ。韓国人が敬遠するような工場などでの肉体労働でも、彼らにとっては故郷の中央アジアにいるよりはるかに稼げる仕事だ。

韓国はここ数年、世界最低レベルの出生率を更新しているが、社会の同質性が高く、移民労働者の受け入れには消極的だ。これまでは危険で過酷な仕事を担う限られた数の労働者だけを、仕方なく受け入れてきた。そうしたなか高麗人は、外国人と韓国人の間に位置する「中間の存在」と見られている。

だが高麗人の多くは、韓国人から同胞として歓迎されているとは思えないと話す。韓国における高麗人の就労状況について調査する研究者で、自身も高麗人であるアルビナ・ユンは言う。

「『私たちには肉体労働者が必要で、自分たちと外見が似ていればなおよい』というのが、韓国人の本音です」

韓国の工場で働いた経験を持つユンは、さらにこう付け加える。

「私たちが韓国に居場所を見つけることはないでしょう」