わずか50人のパイロットのみが許される、着陸困難な空港とは

AI要約

世界でも難しい滑走路を持つブータンのパロ国際空港では、パイロットには高度なスキルが求められる。

地理的条件や天候など様々な要因が離着陸に影響し、安全な飛行が確保されている。

ブータンの航空業界は成長を続け、将来的には直行便も就航する可能性がある。

わずか50人のパイロットのみが許される、着陸困難な空港とは

(CNN) パイロットがA319便を素早く劇的に旋回させ、細い滑走路に着陸させると、着陸前の数分間、手に汗握っていた12人の乗客は拍手を送った。

これはブータンのパロ国際空港でのいつもの1日だ。同空港は世界の中でも特に着陸が難しい飛行場の一つとして広く知られている。約5500メートルの山頂二つの間にある短い滑走路に着陸するには、技術的な知識と強靱(きょうじん)な精神力が必要だ。

この空港と困難な条件は、人口約80万人のブータン王国への旅の神秘性をさらに高めている。

パロ空港の特異な飛行条件により、ジャンボジェット機は利用できない。しかし航空ファンにとっては、これがブータンを訪れる魅力の一部となっている。

ブータンの国営航空会社であるロイヤルブータン航空に25年勤務しているチミ・ドルジ機長はパロ空港について「難しいが、危険ではない」といい、パイロットのスキルは必要だが、危険なら自身は飛行しないだろうと話す。

地理的要因の組み合わせにより、パロへの離着陸には高度に専門化されたスキルが求められる。

パロはカテゴリーC空港とされ、同空港で飛行するためにパイロットは特別な訓練を受けなければならない。着陸はレーダーを使用せずに手動で行う必要がある。パイロットにとって空港周辺の地形を把握することは非常に重要で、ほんのわずかでも間違えれば、誰かの家の上に着陸する可能性がある。

中国とインドの間に位置するブータンは国土の97%以上が山岳地帯で、パロの海抜は約2250メートルだ。

ドルジ氏は「標高が高いほど空気が薄くなるため、航空機は基本的に大気中を速く飛行する必要がある」と説明する。「実際の対気速度は同じだが、地上に対する対気速度ははるかに速くなる」

次に考慮すべき変数は天候だ。

ドルジ氏は正午以降の着陸を避けるようにしていると話す。その時間帯にはサーマル(熱気泡)が多くなり、気温が上昇するものの雨はまだ降っていない。そのため土地が乾いており、午後には谷間で気流の変化による風が吹く。ただしこれは離陸時にはさほど問題にならないという。

レーダーがないため、季節に関係なくパロでは夜間のフライトは行われていない。

さらに通常6~8月にかけての季節風の期間には異なる対応が必要になる。

この時期には、ゴルフボールほどの大きさの雹(ひょう)を伴う雷雨に見舞われることも珍しくない。

つまりパイロット訓練には、飛行方法を知ることだけではなく、飛行しないタイミングを知ること、そして離陸するのが安全ではないと判断できるようになることも含まれるという。

パロの難易度を高める最後の要因は空港を取り囲む山岳地帯だ。

パロの滑走路はわずか約2265メートルで、二つの高い山に囲まれている。その結果、パイロットは着陸寸前まで上空から滑走路を視認できない。

ブータンではさまざまなことが変化しており、航空業界もその一つだ。

インド国境に近いブータン南部のゲレフでは、小さな空港が大幅に拡張される計画がある。ゲレフとパロの最も顕著な違いは地形だ。ゲレフははるかに平坦(へいたん)で、特別な訓練を受けていないパイロットでも離着陸しやすく、ジャンボジェット機も走行可能な長い滑走路を建設できる。

北米や欧州、中東からブータンへの直行便が数年以内に就航する可能性がある。

ブータンのパイロット免許保有者は50人にとどまるとみられるが、同国は海外からの採用にとどまらず、国内で若いパイロットの採用を増やし、育てることに関心を示している。