【独自】死に追いやられた韓国の警察官…「業績不振」でソウル庁から圧力

AI要約

業務過多による警察官の死が相次ぎ、ソウル警察庁が現場点検を計画していたことが明らかになった。

警察官の業務負担が増大し、指標改善などの圧力がストレスとなり、自殺や過労死につながった可能性が指摘されている。

捜査能力を数字だけで評価する制度が問題視され、警察官の負担が増加している状況が続いている。

【独自】死に追いやられた韓国の警察官…「業績不振」でソウル庁から圧力

 業務過多を訴えていた冠岳(クァナク)警察署所属の30代の警衛(日本の警部補に相当)の自殺、銅雀(トンジャク)警察署所属の40代の警監(警部に相当)の過労死など、ソウルの警察官の業務過多による死が相次ぐ中、ソウル警察庁がその時期に彼らの所属していた「実績の振るわない」警察署に対する現場点検を実施する計画だったことが確認された。死亡した警察官は現場点検を前にして深刻なストレスを訴えていたとの証言もあり、警察内部では「過度に実績をあげるよう迫ったことが相次ぐ警察官の死の背景ではないか」との声があがっている。

 ハンギョレが28日に入手したソウル警察庁内部の公文書、死亡した警察官の同僚たちの証言などを総合すると、ソウル警察庁は7月16日から26日にかけて、1年以上の長期にわたって解決できていない事件を多く抱える警察署など、全31警察署中、実績の振るわない13署の現場点検を計画していた。「課長やチーム長の力量管理、故意の放置、捜査不十分事項の有無などを点検する」との趣旨だった。19日に業務過多を訴えて自ら命を絶ったA警衛(31)の所属していた冠岳署、同じ日に脳出血で倒れ、26日に亡くなったB警監(43)の所属していた銅雀署は、いずれも現場点検の対象だった。

■「1週間に一日を除いて夜10~11時まで仕事」

 実際に、現場点検は彼らにとって少なからず負担になっていたとみられる。全国警察職場協議会が冠岳署のA警衛の知人の証言を記録した「事件真相把握報告書」によると、Aさんは死の直前、「(現場点検のある)月曜日が怖い」と繰り返し述べていたという。冠岳署のある捜査官は、「現場点検に向けて各事件ごとに捜査が長期化した理由を書いてまとめなければならないが、事件が40~50件にのぼっていたとすると、この過程が非常に負担となった可能性がある」と語った。

 脳出血で倒れ、後に亡くなった銅雀署警務課所属のB警監の妻も、ハンギョレの電話取材に対し、「水曜日を除くとほぼ毎晩10~11時まで働いていたほど」だったと語った。B警監は今月18日の銅雀署に対する現場点検後の残業中に倒れ、翌日出勤した職員によって発見された。B警監の同僚は、「治安顧客満足度の主務部署が警務課なので、それについて非常に責められたようだ」と語った。

 現場の警察官たちの説明によると、現場点検は年初から続くソウル警察庁からの指標改善圧力の一環だった。1月にソウル警察庁にチョ・ジホ庁長が赴任してからというもの、ソウル警察庁は「長期事件(通報から6カ月が過ぎた事件)率」、「治安顧客満足度」などの指標の改善をよりいっそう強調してきた。各警察署に伝えられる「ソウル庁長のメッセージ」で治安顧客満足度向上に対する積極的な関心と努力を訴えたり、長期事件率を全国平均以下に下げるとして「長期事件集中調査期間」(5月7日~6月28日)を以前より強力に実施したりすることを通してだ。ソウル管内の警察署の長期事件率は、今年3月の11.1%から6月には6.7%へと、わずか3カ月で4.4ポイント低下している。

■「事件50件。どうすれば…道が見えない」

 一方、これらが現場に与えるストレスは深刻だった。今年5月に作成されたソウル警察庁の「長期事件集中処理期間運営計画」によると、週単位で各警察署ごとに長期事件率を割り出して公開し、下位10%の捜査部署のチーム長は7月の対策報告会に参加させられた。30年の捜査経歴を持つある捜査官は、「捜査には平均3カ月かかるが、毎週実績統計を出すというのは行き過ぎた圧力」だと語った。

 過度な圧力は、死亡した冠岳署のA警衛が友人と交わしたメッセンジャーでの会話からも分かる。死亡前のA警衛は「(担当している)事件が50件、補完まで含めると53件」と記している。「伝貰(チョンセ:契約時に高額の保証金を賃貸人に預けることによって、月々の賃貸料が発生しない不動産賃貸方式)詐欺6件が併合されるといわれたけど、どうしたらいいんだ」と吐露してもいる。死の半月前には「本当に死にそうだ。どうしよう。道が見えない」と記している。

 A警衛の同僚は、「A警衛はウェブ上の殺人予告の共犯者を探すために慶尚南道晋州(チンジュ)に出張したり、長期事件の解決のために全羅北道益山(イクサン)に出張したりなど、体が2つあっても足りないほど動いていた。その過程で毎週行われる自主点検、技能点検、上級部署(ソウル庁)点検にとても苦しんでいた」と語った。

■処理すべき事件は50%増、捜査官は減

 これこそ、事件処理のスピードをあげるための措置だったとしても、人員数などの現実を考慮していないと批判される背景だ。警察庁と最高検察庁の資料によると、今年1月から6月までの告訴・告発件数は18万941件で、前年同期(16万4403件)に比べて10.1%増加しているが、捜査官数は警察組織改編の影響などを考慮しても3万5917人で、前年(3万7252人)よりむしろ減っている。特に昨年11月の捜査準則改正で警察が告訴・告発を差し戻せなくなり、すべて立件して捜査していることで、対前年同期比で処理しなければならない事件は50%ほど増えているという。

 ソウル地域のある捜査官は、「今のような深刻な圧力は単なる業務過重にとどまらず、自分の無能さが同僚、構成員、上司、官署に迷惑をかけているという罪悪感を抱かせている」と語った。別の捜査官は、「捜査業務の特性上、事件の件数だけで業務能力を評価することはできない」とし、「数字稼ぎ式の制度が続くと、結局は捜査の質が落ちる」と指摘した。

 これに対してソウル警察庁は、「通報事件の全件受理以降、事件が増えているため、捜査官の負担が重くなっていることは理解するが、長期事件を放っておけば、むしろ市民が権利を侵害される恐れがある」と説明した。ソウル警察庁は下半期にも、9~10月に長期事件特別処理期間を改めて設ける計画だ。警察庁長官候補に指名されたソウル警察庁のチョ・ジホ庁長は、29日に人事聴聞会に出席する。

コ・ギョンジュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )