「トランプ再選」で世界的な物価高騰が再燃...日本も避けられない「インフレ地獄の本番開始」

AI要約

トランプ再選による影響を懸念する桂畑誠治氏。関税引き上げや移民規制強化によるインフレリスク、農家支援策による食料品価格上昇、米国のエネルギー政策や株価上昇によるインフレ再燃、円安・円高の影響などについて懸念を示す。

対応が難しい状況で、トランプ氏との付き合い方に不安を覚える。日本や世界全体がトランプ政権にどう対応していくべきかを考える必要がある。

トランプ再選は「トランプの4年」という限られた期間の問題であり、しっかりと対応していく必要がある。

「トランプ再選」で世界的な物価高騰が再燃...日本も避けられない「インフレ地獄の本番開始」

トランプ再選で米国経済は再びインフレになるのか。そして日本の経済はどうなるのか。第一生命経済研究所主任エコノミストの桂畑誠治氏が予測する。

前の記事『トランプ再選で「来年中にウクライナは敗北」し、ロシアの「属国」になる』よりつづく。

トランプ氏が再選されると、米国のインフレがより進行するのではないかと考えています。トランプ氏が表明している関税の引き上げは、輸入コストの押し上げにつながります。また、移民の規制を強化すれば、人件費の上昇、つまりは賃金インフレをもたらします。

一方で、トランプ氏は自国の農家の支持を得たいように見えます。そのため、前回の大統領時代は農家にバンバンとおカネをばらまいて保護してきました。今回も関税を引き上げて外国産の食料品の価格を引き上げ、農家の支持を集めようとするでしょう。

近年、米国では牛肉をはじめ、日本からの食料品輸入が増え始めていました。しかし、トランプ政権は、輸入シェアが高くなった場合、関税をいきなり引き上げる可能性があります。トランプ氏の再選によって、日本の輸出産業が不利になるリスクが高まるのではないかと考えられます。

米国で物価高が再燃すれば、たとえトランプ氏であっても政治家としてはとても耐えられません。そこで、石油を増産するなど、化石燃料をどんどん生産し、エネルギー関連企業などへの優遇策を打ち出す。環境対策を度外視して、エネルギー価格を安くして、物価を押し下げる施策を取ってくるでしょう。

その結果、エネルギー関連企業の収益が上がり、株価が上昇しやすい。加えて、トランプ氏がメインに打ち出している減税政策を実行すれば、株価にプラスに作用します。株価が上昇すれば、景気は再び過熱していくはずです。そうなると、物価もまた上がっていく。

インフレになると、FRB(米連邦準備制度理事会)はこれまでの「利下げ期待」から一転、再び利上げせざるをえなくなります。米国が利上げすると、より米国に資金が集中し、それがまた円安につながる。米国が世界中からおカネを吸収し、一人勝ちのような様相になってしまいます。

円安がさらに進めば、当然、日本の物価は高くなる。しかも国内の所得はなかなか上がらないので、海外の人に日本の資産が買われていくことにもなるでしょう。

ただ同時に、トランプ氏はドル高を問題視し、円安に懸念を示しています。したがってトランプ氏が再選されたら、急激に円高に動くリスクもある。そうなると輸出企業を中心に業績が悪化し、日本の株価が急落する危険性も指摘されます。

このようにトランプ政権とどう対峙するかは非常に難しい問題です。対応を間違えて機嫌を損ねると、ひどい目に遭うリスクがある。そんなトランプ氏とうまくやれる政治家が日本にいるのか。不安は尽きません。

そうは言ってもトランプ氏は「再選」です。今後8年間続いていくわけではありません。「トランプの4年」をいかに耐えきるかという方向で、日本も世界も対応していくしかないでしょう。

かつらはた・せいじ/’92年、日本総合研究所に入社。日本経済研究センターなどを経て、01年より現職。米国経済・金融市場・海外経済総括を担当する。共著書に『コロナ禍と世界経済』など

「週刊現代」2024年8月3日号より

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