月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性

AI要約

イスラエルの月探査機「ベレシート」が高度150メートルで月面に激突した事件について、クマムシの耐久力や月面での生存に関する研究結果が紹介されている。

クマムシは異常な環境にも耐えられる生物であり、放射線や極端な温度、真空環境にも対応可能であることが示唆されている。

しかし、月面にはクマムシの生存に必要な水や酸素、エサが不足しており、現時点では増殖していないとされている。

月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性

「まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50」2019年4月、イスラエルの月探査機「ベレシート」は民間初の着陸成功を目指したが、高度150メートルでトラブルに見舞われ時速500キロで月面に激突した。

問題は炎暑、厳寒、真空、乾燥、放射線とあらゆる過酷な環境に耐え得る「地球最強生物」の呼び声が高いクマムシが、探査機に数千匹も搭載されていたことだ。

月には空気も水もなく、昼は110℃、夜はマイナス170℃になる。月面で被ばくする放射線は、日本での200倍にもなる。しかしクマムシは、時速2600キロの衝撃や、月面で1年間に被ばくする放射線量の約1万倍に耐えるという研究がある。

さらに、体内水分の95%を失うと代謝を止め「乾眠」して150℃~マイナス270℃の極端な温度や真空に耐えられるようになる。しかも水をかけると復活可能で、乾眠から30年後に活動再開したケースもある。

フランス国立自然史博物館のローラン・パルカは、クマムシは月面激突の衝撃や強い放射線には耐えられたものの、水、酸素、エサとなる藻類がないため、現時点では月で増殖していないだろうと語る。しかし地球生物が月面を汚染し、「復活」のきっかけを待っているなら問題だ。

ベレシートには「創世記の最初の章」という意味がある。月のアダムとイブになるのは、地球から持ち込まれたクマムシかもしれない。

茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)