【コラム】「外国勢力侵略」蜃気楼と戦う北朝鮮政権

AI要約

ロシアのプーチン大統領が訪朝し、北朝鮮の金正恩政権と包括的な戦略パートナーシップ条約を締結した。新たな条約には、武力侵攻時の軍事支援が盛り込まれており、北朝鮮にとって外交的勝利となる。

しかし、同時に朝鮮労働党の会議では経済問題や政権組織の腐敗・無能が深刻に議論され、北朝鮮の現状への懸念が表面化した。

金正恩政権は外見上は成功を収めているように見えるが、実際には経済破綻や政権組織の問題など、内部での課題が山積しており、対外的な課題だけでなく内部の危機も抱えている。

ロシアのプーチン大統領の訪朝は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権に劇的な瞬間だった。派手な歓待を受けて会った朝ロ首脳は従来の善隣友好関係を包括的戦略パートナーシップに格上げする新しい条約を締結した。この条約は北朝鮮に重大な外交的勝利に違いない。特に新しい条約の第4条には、一方が武力侵攻を受ければ他方は可能なすべての手段を動員して軍事およびその他の援助を提供するという内容を盛り込んだ。これはロシアが北朝鮮の要求を受け入れたものだ。

1961年に両国が締結した朝ソ同盟条約にも相互軍事支援内容が入ったが、1996年に廃止された。その後、北朝鮮は繰り返しロシアに類似の条約を要求してきた。一寸先も見えない北朝鮮政権と軍事支援を約束する条約を望まなかったロシアが応じてこなかった。今回のプーチン大統領の訪朝で北朝鮮はついにその願いを叶えた。

仮に、新しい条約が批准され、北朝鮮が韓国を攻撃する場合、朝鮮戦争当時のように南侵を正当化し、ロシアの軍事的支援を受けることが可能になるということだ。まだ北朝鮮軍のウクライナ戦争参戦を確認する兆候はない。今回締結した条約のどこにも、ロシアがすでに参戦中の戦争を北朝鮮が支援しなければならないという条項はない。

条約の第5条によると、両国ともに「他方の核心利益を侵害する第3国」と協定を締結することができない。これは韓ロ関係発展の障害になるはずだ。先月5日にプーチン大統領が「朝鮮半島全体で2国間関係の発展に関心がある」と述べたが、この発言は色あせた。ロシアが北朝鮮に自国の外交的拒否権を譲渡したも同然だ。

しかしプーチン大統領の訪朝に満足した金正恩委員長の喜びも長くは続かなかった。先月28日から今月1日にかけて妙香山(ミョヒャンサン)で開かれた朝鮮労働党中央委員会第10回全員会議拡大会議に金正恩委員長が出席した。ところが異例にも沈鬱な表情だった。公開的に経済問題と政権組織の腐敗・無能を憂慮してきた北朝鮮政権は、今回の会議でまたこの問題を扱った。政権レベルでどれほど憂慮しているかが分かる。金正恩委員長は「状況が極めて深刻」という表現を初めて使った。

今回の会議で深刻な経済状況が議論されたというが、誰も今回の朝ロ条約が厳しい経済状況を打開する機会になるとは話さなかった。条約第9条には双方が食料とエネルギー安全保障分野の挑戦に共同で対処すると明示している。しかし今回の会議でみられた沈黙を考えると、朝ロ条約が大規模な穀物・石油支援につながることを期待する人はいないことが分かる。北朝鮮経済の暗鬱な未来が描かれる。

プーチン大統領の訪朝と朝ロ条約締結、続いて開かれた労働党全員会議は、北朝鮮政権の政策決定の矛盾と非一貫性を見せる。外見上、北朝鮮は外国勢力の侵略に対抗して国家を守護するのに大きく成功した。現代的武器開発にも相当な進展があった。さらにはロシアを同盟国として保有することになった。

しかしあらゆる努力と財源、そして高官レベルの関心にももかかわらず、実際、北朝鮮はいま蜃気楼を追っているのと変わらない。なぜなら北朝鮮が想定している問題というものは外国勢力の侵略を仮定しているからだ。しかし存在もしない外国勢力侵略問題に莫大なエネルギーを注ぐのは非現実的だ。政権首脳部が北朝鮮が実際に向き合う問題であり、北朝鮮に最も大きな脅威となりかねない経済破綻と政権組織の腐敗・無能を解決する妙手がないとのがさらに大きな問題だ。

北朝鮮が常に非合理的だったわけではない。金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記にも失政がなかったわけではないが、概して慎重で体系的な政策決定をし、北朝鮮が直面した多岐多端な問題を直視した。金正恩政権に入って北朝鮮の非合理的な形態がさらに目立つのは事実だ。経済の安定と効率的な国家運営より先端武器開発に重点を置いている金正恩委員長の政策は隣接国に脅威になるだけでなく、北朝鮮政権自体にも良くない。

飢えて憤慨した北朝鮮住民が暴動を起こし、無能で冷淡になった幹部が暴動に受動的に対応すれば、どんなことが起きるだろうか。その時は核兵器も金正恩政権を守ることができないはずだ。

ジョン・エバラード/元平壌駐在英国大使

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