ボクシング女子、46秒で棄権のイタリア人選手が対戦相手に謝罪 パリ五輪

AI要約

イタリアの女子ボクシング選手がパリ五輪でわずか46秒で棄権し、対戦相手に謝罪。過去の検査結果が物議を醸していた対戦相手について、検査の透明性に疑問が生じている。

棄権後の対戦相手への攻撃がネット上で拡散し、トランスジェンダーの議論に発展。トップスポーツにおける性別検査への批判や医療上の規定が重要視されている。

国際オリンピック委員会が検査の透明性を重視し、公平性と安全性を保つための新たな規則を導入。一方で科学的根拠のない批判や攻撃が続いている。

ボクシング女子、46秒で棄権のイタリア人選手が対戦相手に謝罪 パリ五輪

(CNN) パリ五輪ボクシング女子の試合で、開始46秒で棄権したイタリアのアンジェラ・カリニ選手が2日、対戦相手のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)に謝罪した。前日のこの試合を巡っては、ケリフ選手を非難するコメントがネット上に拡散する事態となっていた。

試合開始直後にケリフ選手のパンチを受けたカリニ選手は自身のコーナーに押し戻され、膝(ひざ)から崩れ落ちた。棄権によって敗れた同選手がケリフ選手と握手を交わすことはなかった。

試合を観戦した人々の一部からは、本大会へのケリフ選手の参加を疑問視する声が上がった。アマチュアボクシングを統括する国際ボクシング協会(IBA)は昨年3月、検査の結果により同選手が「出場資格を得るのに必要な基準を満たしておらず」、「他の女子選手に対して競技上の優位性を有していることが明らかになった」と発表。台湾の林郁婷選手と共に世界選手権での失格処分を下していた。

しかし国際オリンピック委員会(IOC)は、パリ五輪へのケリフ選手の参加を強く支持。マーク・アダムズ報道官はIBAの検査を「恣意(しい)的」だと一蹴し、ケリフ選手について「誕生時も登録上も女性であり、女性として生活してきた。女子のボクシング選手であり、パスポートの性別も女性だ」と強調。「これはトランスジェンダーのケースに該当しない」と付け加えた。

IBAはケリフ、林両選手にどのような検査を行ったのか明言していない。IBAによれば両選手は男性ホルモンのテストステロンの検査は受けておらず、それとは別に認められた検査を受けたという。具体的な検査内容は秘密とされている。

カリニ選手は2日、自身のケリフ選手への対応を謝罪した。伊スポーツ紙ガゼッタ・デロ・スポルトの取材に答え「対戦相手に申し訳なく思う」「IOCが彼女の出場を認めているなら、その決定を尊重する」と発言。「意図した振る舞いではなかった」「自分にとっての五輪が不本意な結果に終わり、怒りに駆られていた」と述べた。

試合後、ケリフ選手にはネット上での誹謗(ひぼう)中傷が相次いだ。有力な反トランスジェンダー論者や右派のコメンテーター、政治家は不正確な認識からケリフ選手を男性と呼び、騒動を利用して性自認を巡るより広範な文化戦争を扇動した。

米国のトランプ前大統領や起業家のイーロン・マスク氏、英作家のJ・K・ローリング氏といった著名人もケリフ選手の出場に批判的なコメントを寄せた。

五輪の選手村を訪れていたイタリアのメロー二首相は1日、「平等な試合ではなかった」との見解を示した。

スポーツにおける性別検査に対しては、これまで複数の団体が厳しい目を向けてきた。国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは、こうした検査がプライバシーや尊厳に絡む基本的な権利を侵害していると主張する。

性分化疾患(DSD)を抱える女子選手は、しばしばそのような検査の対象となる(ケリフ選手は自身がDSDだとは述べていない)。

DSDは遺伝子やホルモン、生殖器官に関連する一連の症状で、生まれつき他の女性よりテストステロンが多く分泌される体質が関係する場合もある。DSDの特徴は第二次性徴を迎える思春期にならなくては現れない。

どれだけの人々がDSDの特徴を備えているのか推定するのは困難だ。自分がDSDであるのを知らないまま一生を過ごす人も多い。科学者らは50人に1人はDSDの特徴と共に生まれると推計する。DSDの特徴を持って生まれた人は、あらゆる性自認を有する可能性がある。

パリ五輪に先立ち、IOCはDSDを抱える選手について新たな規則を導入。そのようなケースに対しても包摂性を既定方針とするべきであるとした。またDSDを抱える選手が女子の競技から除外されるのは、公平性と安全性に明確な問題が生じる場合のみとすべきとも定めている。

IOCは2日、ボクシング競技に臨む全選手は「大会への出場資格と参加規定を順守している」と改めて強調。「該当する医療上の規定も守っている」とした。

それでもアダムス報道官は、検査及び競技の公平性、安全性を巡って浮上した懸念について理解していると表明。自分たちが決定を下す手法について、白黒はっきりつけられる説明は現時点で科学界にも存在していないと認めた。

一方で競技者の中には、ケリフ選手を支持する声も多い。2022年の世界選手権でケリフ選手を破ったアイルランドのエイミー・ブロードハースト選手はX(旧ツイッター)に2人の画像を投稿。「憎悪感情を抱くのはばかげている」とのメッセージを書き込んだ。

またアルジェリア五輪委員会は、「彼女(ケリフ選手)の人格と尊厳に対するこのような攻撃は著しく公平さを欠く。とりわけ本人が五輪でキャリアの頂点を目指している中では不当なものだ」と批判した。