【エアバッグがないロシア車】中国依存が高まり続けるロシア経済 撤退後の日産やマツダの工場では中露の自動車共同生産も

AI要約

プーチン大統領が外資企業の撤退を契機に自国産業を強化する意向を表明した。しかし、輸入代替政策が長期的には逆効果になる可能性が高い。

ロシアは共産主義体制下からの遅れを抱え、経済の混乱やソ連崩壊後の経済状況が国内企業の発展を阻害した。技術やノウハウの不足が今回の輸入代替政策を難しくしている。

国内企業は一定程度の成功を収めつつも、企業間の競争が働かない環境で生産された商品は国民にとって不利益をもたらす可能性がある。

【エアバッグがないロシア車】中国依存が高まり続けるロシア経済 撤退後の日産やマツダの工場では中露の自動車共同生産も

 開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。

 開戦当初から西側諸国の厳しい制裁を受けることとなったロシア。その中で、ロシア国民は何を思うのか? 2022年モスクワの様相をお伝えします。

*本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。連載第1回はこちらから

 「多くのヨーロッパ企業はロシア市場から撤退すると表明している。しかし、これは良いことかもしれない」

 プーチン大統領は2022年5月下旬、こう発言して世界の耳目を集めた。相次ぐ外資の撤退が、自国産業を強める契機になるとの趣旨の発言だった。〝外資系企業がロシアに参入して市場を開拓してくれた。そしてその市場を今、ロシア企業が獲得できる〟──。プーチン大統領の言葉には、そのような意図が込められていた。

 多くの人々が驚いたプーチン大統領の発言だったが、ロシアは実際には2022年のずっと以前から、このようなプーチン大統領の考え方に沿った政策を進めていた。2014年のウクライナ南部クリミア半島の併合以降、国際社会からの経済制裁に対抗するために進めてきた「輸入代替」政策がそれだ。

 ロシアは制裁により、欧米などから一部の先端技術の提供を受けられなくなったほか、一部の製品を輸入できなくなったが、プーチン大統領はそれを機に輸入に依存せず、自国産品で産業を回せる態勢を整えようとした。

 今回の全面侵攻により、制裁は一気に強化され、外資系企業の撤退が加速した。だからこそ、国内企業が生産を増大すれば、外資に奪われていた国内でのシェアを奪還できるとプーチン大統領は主張したのだ。

 実態はどうなのか。確かに、欧米や日本の企業が撤退したことは、ロシア企業にチャンスを生んだ。ただ、長い目で見れば、輸入代替政策はロシアの産業にとり、むしろ逆効果になる可能性が高いと私はみている。それには、ロシア特有の理由がある。

 ロシアは旧ソ連時代から、宇宙開発や軍需産業など、特定の分野を除けば多くの産業で西側の国々から立ち遅れていた。共産主義体制下の産業は、資本主義体制下のような民間企業間の自由な競争が起きず、西側との差が開いていったためだ。そして、ソ連崩壊後の経済混乱で国内企業は一気に経営状態が悪化し、その遅れはさらに決定的になった。

 1990年代は混乱が続いたが、ロシアはその後、2000年以降の国際的な資源価格の上昇で経済を立て直し、その輸出収入で海外の製品・サービスを輸入することで、人々の生活水準を向上させてきた。

 しかし、今回のウクライナへの全面侵攻を受け、ロシア事業の停止・縮小などを決めた多国籍企業は1000社を超え、同時に多くの輸入品が消えた。

 プーチン大統領が主張する輸入代替政策は、原材料が潤沢に国内に存在していたり、生産コストを度外視したりすれば、一定程度は成功し得る。しかし、技術やノウハウの積み重ねがない状態で、輸入品と同レベルの製品を作ることはできない。企業間の競争が働かない環境で生産された商品・サービスを押し付けられる国民は、たまったものではないのが実態だ。