【陸上】“真のチャンピオン”を目指した村竹ラシッド「まだまだ強くなれる」110m障害で5位
22歳の村竹ラシッドが陸上男子110メートル障害で5位入賞し、日本勢初の決勝進出を果たした。
メダルまで0秒12差で悔しい思いを残すも、日本男子の最高成績を更新し、新たな歴史を刻んだ。
「真のチャンピオン」を目指し、いつかは世界のチャンピオンになることを夢見る彼の挑戦が続く。
<パリオリンピック(五輪):陸上>◇8日(日本時間9日)◇男子110メートル障害決勝◇フランス競技場
【パリ8日(日本時間9日)=藤塚大輔】陸上男子110メートル障害の村竹ラシッド(22=JAL)が日本勢初の決勝に挑み、13秒21(向かい風0・1メートル)で5位入賞を飾った。
1932年ロサンゼルス五輪男子100メートル6位だった「暁の超特急」吉岡隆徳を上回り、五輪短距離個人種目で92年ぶりに日本男子の最高成績を更新した。メダルまで0秒12差だった。「真のチャンピオン」を目指してきた22歳が、初の五輪で日本陸上界に新たな歴史を刻んだ。
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「緊張も不安も楽しんでやる」。村竹が鋭く飛び出した。1台目と4台目のハードルを倒した。でも崩れない。9台目も倒した。でも諦めない。上半身をぐっと倒しフィニッシュ。日本男子の歴史を動かす5位に入った。
表彰台まで0秒12。1メートル先に銅メダリストがいた。自己ベストの13秒04なら銀メダル。「中途半端な順位。悔しい思いが残った。ただメダル獲得の目標が現実味を帯びてきた」。
小5で競技を始めた頃は特別に足が速いわけではなかった。中学の陸上部でもリレーメンバー入りが微妙なライン。ただ、足首の強さや体のバネに光るものがあり、ハードルを始めると才能が開花した。
中2秋には千葉県大会を制覇。その時に顧問の高嶋美佳先生から言われたのが「真のチャンピオンになろう」という言葉だった。
いつものように「はい!」と元気に返したが、内心は「どういう意味?」ともやもや。高3で全国高校総体を制したが「真のチャンピオンってなんだろう?」と胸に引っかかり続けた。同時にいつも心に抱いていたのが「やめたい」という思い。順大進学後も卒業後に競技を続けるつもりはなかった。
転機は21年日本選手権決勝。東京五輪の最終選考会でまさかのフライングをおかした。直後は1週間ほど部屋にこもった。「もっと真剣だったら五輪に立てたかもしれない」と思い直した。
それから2年後の23年9月。学生日本一を決める日本学生対校選手権の決勝に、太もも裏痛のまま出場した。
「いつもの自分なら棄権していたかもしれない。でもこれで順大のチームの結果が変わる」
そのレースで2年先輩の泉谷駿介に並ぶ日本記録の13秒04をマーク。仲間のために走った1本で優勝し、チームを“チャンピオン”に導いた。
日本人が同種目に挑んでから96年。初の決勝進出で歴史の扉を開き、92年ぶりに「暁の超特急」吉岡の6位を超えた。これからは悲願のメダルとその先へ突き進む。
「決勝に進めたことは大きな成果だけど、メダルを取れなかった悔しさがある。まだまだ強くなれる」
もう立ち止まらない。世界との距離が最も遠いといわれてきた「トッパー(110メートル障害)」に日本人の夢を乗せ、いつかは世界のチャンピオンへ-。