【陸上】「技術を高めることで可能性が広がる種目」注目浴びる“サンショー” 強化の現在地

AI要約

三浦龍司がパリオリンピック陸上男子3000メートル障害の決勝に進出。過去最高の7位入賞を果たしており、今大会でも期待されている。

3000メートル障害は以前はマイナー種目とされていたが、国内で競争が激化しており、多くの若手選手が頭角を現している。

コーチや指導者たちは選手の技術向上に注力し、練習環境の向上や女子選手の障害種目導入なども模索している。

<パリオリンピック(五輪):陸上>◇7日(日本時間8日)◇男子3000メートル障害決勝◇フランス競技場

 陸上男子3000メートル障害の三浦龍司(22=SUBARU)が、2大会連続で決勝(日本時間8日午前4時43分開始)の舞台に立つ。前回の東京五輪では、同種目過去最高の7位入賞。今大会も活躍が期待される。

 これまで「マイナー種目」と言われてきた3000メートル障害は、国内で競争が激化。6月の日本選手権で2位に入った中央大2年の柴田大地や、箱根駅伝後に米国で武者修行した元青学大の小原響(GMOインターネットグループ)ら、“サンショー”に力を入れる選手も増えつつある。

 五輪2大会連続出場の岩水嘉孝氏(45=住友電工長距離ヘッドコーチ)は、日本陸連で3000メートル障害の強化を担当。近年は強化内容も変化しつつあるという。【取材・構成=藤塚大輔】

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 -日本の男子3000メートル障害は世界大会でのメダル獲得を目標に据えています。この目標が掲げられるようになったのはいつ頃からですか

 「三浦選手が五輪で入賞した21年東京五輪以降です。それまでは決勝進出や入賞が目標でしたが、三浦選手がその扉をパッと開けてくれました。彼の活躍で私も一気に火がつき、強化しやすくなった面があります」

 -今春には国内のトップ選手を集めて、強化合宿を実施しました

 「これまで各選手へデータなどは送っていましたが、なかなか活用できていない実態がありました。そこで昨年(23年)はオンラインで『なぜ技術を高める取り組みをしているのか』について、選手や各所属先の指導者の方へ伝える機会を設けました。今年3月の合宿ではより詳細な動作解析を通じ、障害への踏み切りの位置や着地の位置を分析しました。選手によって合宿の位置づけはそれぞれだと思いますが、シーズン前に高いレベルで練習することで、ナショナルチームとして意識を高めるという意味合いもありました」

 -練習環境も変わりつつありますか

 「都内のナショナルトレーニングセンター(NTC)の陸上競技場が改修されて、昨年から水濠が使えるようになりました。日本の競技場では通常、トラックの外側に水濠がありますが、NTCは海外のようにトラックの内側に水濠があります。ここ数年の活躍が認められたことで、設置されたのではないかと思います」

 -2025年の国民スポーツ大会(旧国体)からは、新たに少年少女で2000メートル障害が実施されます。なぜ女子の高校生年代で障害種目が設置されたのでしょうか。

 「女子は2008年に早狩実紀さんが9分33秒93を記録して以来、日本記録が更新されていません。男子と比べて、3000メートル障害に取り組んでいる選手が少ないという現状があるためです。その背景には、全国高校総体(インターハイ)で男子は3000メートル障害が実施されていますが、女子は障害種目がないという点があります。将来的には女子もインターハイで障害種目を設置してほしい思いもあり、まずは国民スポーツ大会で始めることになりました。高校の時に障害種目に触れていないと、大学や実業団ではなかなか始められません」

 -高校年代で障害種目を設置することで、競技の裾野を広げる目的があるのですね

 「はい。もう1つの理由としては、ジュニア時代に障害種目に取り組むことが、将来的な中長距離種目の発展や強化につながるという考えがあります。私が指導者になった頃にメルボルントラッククラブでオーストラリアや海外の陸上の取り組みを学んでいた時期がありますが、海外では障害種目やクロスカントリー走は基礎的な能力や柔軟性が鍛えられるため、積極的に取り組まれていました。近年でいえば、ノルウェーのヤコブ・インゲブリクトセン(パリ五輪男子1500メートル4位)は3000メートル障害の出身です」

 -3000メートル障害の体の使い方が、ほかの競技に生きるということですか

 「ハードルを跳び越える動作を通じて、自分が思い描く走りを体現する能力が培われると思っています。例えば自分では足が上がっているつもりでも、実際には思っていたほど上がっていないということはありますよね。陸上競技では、動きをいかにイメージに近づけていくかが大事になります。そうした積み重ねをジュニア時代に経験することは、のちに中長距離をする時にも役立つと思います。国民スポーツ大会で3000メートル障害ではなく、2000メートル障害を導入するのは、女子の高校年代のトラック種目の最長が3000メートルという点も関係しています。3000メートル障害だと距離が長いですが、2000メートルにすることで、1500メートルの選手もアプローチがしやすいのではないかと思います。今は男子の3000メートル障害が注目されていますが、女子は停滞が続いているので、この現状を変えたいという思いがあります」

 -あらためて、3000メートル障害の魅力はどのような点にありますか

 「3000メートル障害は走力だけではなく、技術を高めることで可能性が広がる種目だと思っています。パワーや走力では欧米やアフリカの選手たちに劣るかもしれませんが、そこに技術が備わることで活躍できるのではないかと見立てています。基礎走力はどのチームも独自のノウハウがあり、日本のレベルも上がってきています。そこにどのように技術を伝えていくかが大切だと考えています」

 ◆3000メートル障害とは 「サンショー」と略される。3000メートルを走る間に障害物(高さは男子91・4センチ、女子76・2センチ)を28回、池のような水濠(すいごう)を7回越えていく。各周に5回の障害物があり、その4番目が水濠であることがルール。水濠以外の4つの障害物は移動式。手をかけて越えてもいいが、外側を通ったり、下をくぐったりするのは禁止。日本記録は男子が三浦龍司の8分09秒91、女子が早狩実紀の9分33秒93。