【五輪日和】オリンピックに棲む魔物 バレー男子&はりひなも餌食…救世主は「国防ブライアン」

AI要約

バレーボール男子と卓球でのオリンピック初戦での敗戦を通じて、スポーツの勝負に潜む"魔物"について考察。

一流アスリートたちが経験する「バイオリズム」という心理的要因による影響を示唆。

日本サッカー男子代表の守護神・小久保玲央ブライアンが対戦相手に畏怖を与え、PK戦での勝利に貢献したエピソード。

【五輪日和】オリンピックに棲む魔物 バレー男子&はりひなも餌食…救世主は「国防ブライアン」

<五輪日和>

 スポーツ、その勝負の世界には「魔物」が棲んでいる。もう勝利は間違いない。そう確信したところに、思いがけぬ大どんでん返しが待っている。

 27日のバレーボール男子で、日本はドイツ相手に勝利まであと1歩というところで勝ちきれなかった。セットカウント2-1とリードして迎えた第4セット。24-24の攻防から日本のポイントとなった場面でドイツは2度、チャレンジを申し込み、どちらも成功した。

 VTRでよく見ないと分からないミクロの世界。22年サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で「三笘の1ミリ」が話題となったが、その記憶がよみがえる“勝負のキワ”だった。

 この第4セットを28-30と落としたことで、勢いの差が勝負に出た。第5セットを12-15と押し切られ、金メダルを目指す世界ランキング2位の日本が、同11位のドイツに初戦でつまずいた。

 「これがオリンピック」。西田有志の言葉には「魔物」の存在が透けて見えた。

 続く卓球でも衝撃が走った。バレーボール同様に金メダルが期待された張本智和・早田ひなの“はりひな”ペアが、初戦で北朝鮮ペアに1-4と完敗した。国際大会で優勝を重ね、中国ペアの王楚欽・孫頴莎組に次ぐ第2シードだった。メダルは間違いないと思われた種目だった。

 前回の東京で同種目を制している水谷隼さんはXで「オリンピックの魔物か…」とつぶやいた。

 魔物の正体とは-。

 一流も選手が集うオリンピックのような最高峰の舞台となれば、心理面が大きく勝負に影響する。追い詰められた精神状態にあってプレッシャーが力みを生み、負のスパイラルへとはまっていく。ジェットコースターで一気に下降していく時の「恐れ」に似たような感情か。コントロールできないものへの畏怖の念-。トップアスリートが口にする「魔物」はここに当てはまる。

 人間には「バイオリズム」がある。生理状態、感情、知性などの周期パターンのこと。短いゲームの中にも、そのバイオリズムの波が現れる。それが高まれば勢いを増し、下がれば後退する。対峙(たいじ)する相手との相関関係にある。そこへ勝負どころでのプレーの偶然性が絡むことによって「魔物」は突然、現れる。

 炎の揺らぎ。それは科学的には解析できない「フラクタル(幾何学の概念)」な動きで、感情の揺らぎも同様だ。解析できないからこそ一流アスリートたちも制御不能に陥る。ただ経験豊富な選手となれば「暗黙知」として、魔物との付き合い方を習得している。

 27日のオリンピック視聴最後にも、そんな「魔物」場面に出くわした。サッカー男子日本対マリ戦。1点リードで迎えた後半アディショアンルタイム。相手シュートが腕に当たり、日本はマリにPKを与えた。

 止めれば8強、決められたら8強は持ち越しというまさに「勝負のキワ」。ゴールマウスには日本の守護神・小久保玲央ブライアンが仁王立ちしていた。ここで相手選手はゴール左へキックしたが、ボールは外へと転がった。小久保の威圧感が相手に与えた心理面は大きかったように思う。

 同様の場面がつい数カ月前にあった。日本はU-23アジア杯決勝でウクライナと対戦し、同じく1点リードの後半アディショナルタイムにPKを与えた。その時も小久保がシュートストップ。1点を守り切り、優勝を手にしていた。

 ネット上には「国防ブライアン」と名前をもじった言葉が並んだ。そう称賛された男は、魔物をどう手なずけたか語っている。

 「なんか止める雰囲気が、自分でも止めるっていうか、入る気がしなかったんで、やっぱ彼ら(仲間)のためにもなんか感情がすごく入って、笑っちゃいました」(日刊スポーツ)。

 人間には魔物が内在している。だからこそオリンピックは「筋書きのないドラマ」を生み、そして後世へと語り継がれる。【佐藤隆志】