名門復活に見たマネジメントの妙 全日本連覇の青学大硬式野球部・安藤寧則監督に聞く

AI要約

青山学院大学硬式野球部の快進撃が止まらない。昨年、17年ぶりに東都春季リーグで優勝したのを皮切りに、リーグ戦3連覇を果たし、全日本大学野球選手権でも18年ぶりに優勝、そして今年、2年連続の日本一に輝いた。

安藤寧則監督が重要な役割を果たし、学生たちとのコミュニケーションやチームの育成に注力している。

安藤さんは選手の自主性を尊重し、長所を引き出すことに重点を置いており、選手たちとの信頼関係がチームの成功に貢献している。

名門復活に見たマネジメントの妙 全日本連覇の青学大硬式野球部・安藤寧則監督に聞く

 青山学院大学硬式野球部の快進撃が止まらない。昨年、17年ぶりに東都春季リーグで優勝したのを皮切りに、リーグ戦3連覇を果たし、全日本大学野球選手権でも18年ぶりに優勝、そして今年、2年連続の日本一に輝いた。偉業に貢献したのが同部OBで、青学高等部野球部の指揮も執った安藤寧則監督だ。同大は大リーグなどで活躍した井口資仁さんらを輩出した名門だが、2014年に東都2部に転落、20年に再昇格を決めるまで長く低迷していた。安藤さんは監督の役割について「勝つために監督としてできることは限られていて、最後は実際にプレーする選手がつかみ取らないといけない。そのためには、学生でも『大人扱い』し、自主性の文化を育むことが大切です」と話す。(時事通信大阪支社 中村夢子)

◆就任直後「野球やる環境ではなかった」

 19年の監督就任直後に安藤さんが目にしたチームは、「選手に必死さがなく、野球をする環境ではありませんでした。これを放置していた事実にがくぜんとしたし、だから1部に上がれないんだ」と感じたほどだった。状況を打開するため「とにかく、学生たちと会話していった。そして、むしろ取り返しのつく範囲の事件は起きろと思っていたほどです。その時が僕なりの『越えてはいけない一線』を伝えるチャンスだと考えていましたから」と振り返る。その思いを知ってか知らずか、やはり就任直後にさまざまな問題が起こり、何人かの部員は部を去ることになった。

 ただ、選手全員と面談する中で、「意外にも『ちゃんと野球をやりたい』と言った選手が多かったので、自分が思っている以上に早く良いチームになる予感がしました」とも。大学職員からは生活指導のため学生寮を見回るよう頼まれたが、かたくなに断った。「学生だけの世界を大事にしてやりたかったので、絶対に嫌だった。職員に『時間をください』と伝え、改善を待ってもらいました」という。

◆調子の悪い時ほど「長所の確認」

 学生と意思疎通する上で気を付けているのは、とにかく「大人扱い」することだ。「はみ出してはいけない枠や踏んではいけない地雷はこちらが示さなければなりませんが、あとは彼らが自由に走り回れるようにして、信じることです。『俺をだますなよ』と選手には伝えていますが」と冗談交じりに語る。

 今春のリーグ戦ではそれを象徴する出来事があった。リーグ戦進行の都合上、青学大の試合が後ろにずらされコンディションの調整が難しい状況に直面した。特に早朝からの全体練習が負担となっていたようで、主将から「あしたは自主練習にさせてほしい」と要望があった。「僕もちょうど学生に任せようと考えていた時でした。今の上級生とは信頼関係も築けている」という自信もあり了承することにした。そして、次の試合では見事勝ち星を上げた。

 選手には個々人でコンディションの波があるのはやむを得ない。選手の調子が悪くなった場合、安藤さんは「長所の確認」を選手と共に行うという。「丁寧に低めに投げ込むのが得意なピッチャーなのに『打たれたらどうしよう』と弱腰になり、ボールが高めになってしまっている時は、彼の長所をもう一度確認します。そして、自分の長所を出し切って挑んだ本気の失敗は、次に絶対つながると信じています。なのでプロセスにはこだわりますが、試合の結果についてとがめたことは一度もありません」と熱く語る。

 その上で、試合に出る選手を決めるポイントは、「選手自身の腹が決まっているかどうかですね。『俺の長所はこうだ』と覚悟を決めて試合に出るとプレーが全然違う。全日本選手権の中京大との一戦で、2対3で1点リードされている場面。相手は真っすぐも変化球もある良いピッチャーでした。代打で指名した選手は、真っすぐに強いのですが、考え過ぎて長所が消えることもあった。『変化球で三振を取られるのは構わないから、とにかく真っすぐだけは差し込まれるな』と指示したら、見事な犠牲フライを打ち同点。そこが勝負を分けた瞬間でした」と振り返る。