東京E-Prixは、ZEV普及の足掛かりになったのか? 東京都がフォーミュラEに全面協力した理由

AI要約

東京都がフォーミュラEの東京E-Prix開催に積極協力した理由として、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)の普及推進が挙げられる。

東京都はフォーミュラEを通じてZEVの魅力を広く発信し、消費者の意識変革を促進した。また、再生可能エネルギーの推進や水素利用も注力している。

東京E-Prixの開催はZEV普及を目指すための戦略であり、将来的に国際的なビッグイベントとも連携を図り、東京の魅力を強化する予定である。

東京E-Prixは、ZEV普及の足掛かりになったのか? 東京都がフォーミュラEに全面協力した理由

 今年、東京ビッグサイト周辺の公道を含めたコースで開催されたフォーミュラEの東京E-Prix。日本で本格的な公道レースが開催されたのは、これがはじめて。前例がないことを行なうのは、この国では至極難しい。その状況を打破するために東京都が全面的に協力し、警視庁はじめ関係各所との協議、調整を行なったという。東京都は主催者ではないにもかかわらず、大いに汗をかいたのだ。

 ではなぜ東京都は、そこまで骨を折って東京E-Prixの開催に協力したのか? 東京都は東京E-Prixの開催によって、何を目指したのか?

 フォーミュラEは”電気自動車のF1”と呼ばれることもあるように、使われるマシンは完全電動車……つまりEVである。地球環境を保全するため、化石燃料の使用量を大きく引き下げ、そしてゼロにすべしとの声が世界中で高まっており、そのためにはガソリン車をEVに置き換えるべきと言われることが多かった。

 最近ではインフラや電力確保といった面で、EVだけが正解ではないのではないかとの声が一般的となり、幅広い意味でのZEV(ゼロ・エミッション・ビークル/電気や水素などをエネルギー源とし、走行時に二酸化炭素などの排ガスを出さない自動車)を普及させる必要性があると訴えられている。

 東京都はこのZEVの普及推進に注力しており、そのために今回の東京E-Prixを活用することになった。

「実は10年くらい前から、東京でフォーミュラEをやりたいという話はありました。でも、なかなか具現化しなかったんです。しかし5年くらい前に今の知事(小池百合子都知事)になってから、ZEVを環境対策の象徴的な存在としてPRしていきたいという方針になり、その一環としてフォーミュラEを全面的に協力して開催しようということになり、庁内に検討組織が立ち上がりました」

 そう語るのは、東京都の産業労働局の毛塚健太課長である。東京都はZEVを普及させるためのイベントやキャンペーンを、積極的に行なっている。環境に優しいということは認識されつつも、その魅力がなければ普及促進にはつながらない。その走りという面の”魅力”を伝えるには、フォーミュラEが適当だったようだ。

「1回目のレースを行なったことで、ZEVという静かで環境にも優しいというクルマを使ったレースを色んな方に体験していただいて、その魅力を実感していただけたのではないかと思っています」

「東京E-Prixの時には、(同じ東京ビッグサイト内で)E-Tokyo Festivalというイベントも行ないました。そこにはEVなどを展示して、フォーミュラEを観戦にいらっしゃった方に、今度自分がクルマを買う時にどんなモノがあるんだろう……そういう視点で展示車をご覧いただけたと思います」

「東京都では、ZEVの普及支援をかなり積極的にやってきました。新車の販売台数のうちEVが占める割合は、全国平均をかなり上回る実績になっています。ZEVのイベント、そしてフォーミュラEを開催してZEVの魅力を発信したことで、消費者のマインドも少しずつ変わってきたと思います」

 ただ、EVを普及させるのは簡単ではない。ガソリン車のようにガソリンスタンドで給油すればいいというわけではなく、充電しなければならないのだ。現時点ではその充電のための施設が潤沢に整っているとは言い難く、それがEVを普及させる上での足枷のひとつになっている。

「インフラの問題がひとつあります」

 毛塚課長はそう言う。

「ご自宅で充電できるような仕組みもありますが、街中で自由に充電できる環境というのは、まだまだなのかなと思っています」

「東京都でも充電設備の補助などは行なっていたり、大きなマンションなどには一定数EVの充電設備を置いてくださいねとか、そういうことをやっています」

 またゼロエミッションを目指すためには、EVで使う電力を化石燃料を使った火力発電に頼ってしまっては本末転倒である。

「東京都としては、来年の4月から新築の住宅の屋根に太陽光発電を設置する際に補助金を出すなど、再生可能エネルギーにはかなり力を入れています。そこは他の自治体と比べても充実していると思いますよ」

「ただ東京の土地は狭いですから、大型の風力発電施設を建設するようなことは難しいです。色々なアイデアを出しながら、出来る対策を進めています」

 水素をはじめ、その他のエネルギー源にも注視しているという。

「水素については、商用利用を目指して力を入れています。航続距離の長い、トラックやバスとか、そういうモノに水素を使えないかと検討しています」

「平和島に大型のトラック向け水素ステーションを整備しました。そういうことも東京都としてやっており、水素自動車への補助もEVと合わせてやっています。eフューエル(持続可能燃料)についてはまだ市場に出回っていないので、そこについてはまだ何もできていませんが」

 水素はスーパー耐久やWECで、持続可能燃料はF1をはじめとした様々なレースのカテゴリーで使われはじめている。言ってみればそれらも全てZEVであるが、現時点ではフォーミュラE以外のレースを誘致する計画はないようだ。

「正直に言って、そこまでの計画はまだないです」

「東京の公道でレースをやるためには、公益性が求められると思います。それは水素であろうがなんだろうが、変わらないと思います。もし主催者側が、都の方針とリンクしながらやっていただけるのであれば、我々としては分けているわけではありません。そういうお話しがあればやれる余地があるかもしれませんが、具体的なアクションは、今は他の団体さんからはありません」

 また東京都としては、フォーミュラEはあくまでZEVの普及のためだと断言する。しかし2025年には世界陸上など国際的なビッグイベントが東京で開催される予定となっており、それらとの相乗効果を出せる方向性を考えていると、毛塚課長は説明してくれた。

「(世界に東京という都市の魅力を発信する上で)それなりの広告効果もあったと思います。東京でやっているというところもひとつ重要な戦略だと思うので、その要素は持っています」

「ただ我々としては、ZEV普及のためという切り口で始めた事業です。なので『EVだからこそ出来た』という部分はあると思います」

「とはいえ、インバウンドの方に東京を楽しんでいただくための視点というのは重要だと思うので、フォーミュラEを契機に来日された方に対しては、そのために色々なコンテンツを用意します」

「また来年(2025年)は、世界陸上など国際的なスポーツイベントが東京で開催されます。そういうイベントで来ていただいた時に東京の魅力を発信する……そういうことについては、都としても力を入れると思います」

 なお最近では、東京都知事選挙があり、大いに話題になった。結局小池都知事が再選を果たしたが、他の候補者が当選していたら、来年以降の東京E-Prix開催が白紙に戻されていたのでは……そんな懸念もある。

 これについて尋ねると毛塚課長は、知事が変わっても、契約内容が変わることはない……つまり東京E-Prixは継続開発されると説明してくれた。

「基本的には、開催国契約を結んでいます」

 そう毛塚課長は語る。

「都知事が変わったとしても、2026年までは現在の協定は生きています。ですので、開催に協力するというスタンスは変わりません」