ベッカムFKで薄れた「偉業」と5人制が可能にした「戦術」、ルヴァン杯「ベンチ9人」(2)意外と知らない「サッカーの選手交代」起源と進化と現在地

AI要約

サッカーは無数のディテールであふれており、ベッカムの劇的なFKやシェリンガムの同点ゴールが特筆される。

現在のサッカーでは、5人までの交代が可能であり、その背景には戦術的な要素がある。

新型コロナウイルスの影響でサッカーのルールも変化し、交代可能人数が恒久的に5人、延長戦では最多で7人となる。

ベッカムFKで薄れた「偉業」と5人制が可能にした「戦術」、ルヴァン杯「ベンチ9人」(2)意外と知らない「サッカーの選手交代」起源と進化と現在地

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、0から最多7まで増えたもの。

 2001年10月、マンチェスターでのワールドカップ予選に戻ろう。テディ・シェリンガムの劇的な同点ゴール直後にイングランドは再びギリシャにゴールを許し、窮地に立たされる。そして、後半アディショナルタイム。すでにゲルゼンキルヘンで行われた「ドイツ×フィンランド」の試合は0-0のままで終了し、ドイツは勝ち点1を得ている。このままイングランドが敗れればプレーオフに回ることになる。

「4分間」と示されたアディショナルタイムが2分を過ぎたとき、ロングボールを競ったシェリンガムがファウルを受け、イングランドはゴール正面28メートルでFKを得る。蹴るのはもちろん、ベッカムである。ボールは鋭く飛び、曲がり、落ちて、ギリシャゴールの左に突き刺さった。彼のキャリアで最も有名なFKである。

 あまりに劇的なベッカムのゴールにより、シェリンガムの同点ゴールはやや影の薄いものになってしまった。それでも、ワールドカップ出場権をかけた試合での交代後15秒での同点ゴールは、特筆されるべき偉業と言える。

 前振りが長くなりすぎた。今回のテーマは、実はシェリンガムではなく、「交代」なのである。

 現在のサッカーでは、交代は非常に重要な要素を持っている。先発した11人のうち、試合中に5人まで新しい選手に代えることができるのだ。「90分間、前線から相手にプレスをかけ続ける」という戦術が成り立つ背景には、明らかに「交代5人制」がある。

 2020年、新型コロナウイルスのパンデミックで世界中のサッカーが危機にさらされた。トレーニングもできない期間、試合ができない期間を経て、無観客などでようやく再開されたサッカー。しかし当然、トレーニングも十分でなく、過密日程にもなる。そこで国際サッカー連盟(FIFA)の要請により、サッカーのルール決定機関である国際サッカー評議会(IFAB)は5月8日付けで「回状」を出し、公式戦での交代可能人数を、当時のルールで決められていた「3人」から一時的に「5人」に増やすことを通達したのである。

 1年間限りだったこの措置は、コロナ禍の長期化にともなってその後も延期され、ついに2022年には恒久的なルールとなった。1試合の交代は5人まで、ただし、ハーフタイムを除き、プレー進行中の交代は1チームあたり3回とする。ただし、延長戦になった場合には、大会ルールによって交代可能人数を1人、交代可能回数を1回増やすことができる。

 さらに2021年には、脳振とうと判断されたときには、そのための交代人数と回数をカウントしないという新ルールの試行が開始され、日本をはじめ、多くの大会や多くの国でその試行への参加が始まったため(まだ正式なルールにはなっていない)、現在では、延長戦に入った試合では、最多で7人、5回の交代が行われることになっているのである。