宇宙地図の「ぶれ」から重力波を探す!宇宙最初期のインフレーションの痕跡「原始背景重力波」や超大質量のブラックホール連星を見つけるには

AI要約

宇宙物理学における宇宙誕生最初期に急激な膨張が起こったとされる「インフレーション宇宙モデル」について、その痕跡である「原始背景重力波」を捉える方法について述べられています。

銀河系内の星の運動から重力波を検出する方法について具体的に説明されています。星の位置の変動を通じて重力波の影響を抽出する可能性について述べられています。

銀河系内の超精密な星の地図を作ることによって、重力波による影響を抽出することが期待されることが述べられています。

宇宙地図の「ぶれ」から重力波を探す!宇宙最初期のインフレーションの痕跡「原始背景重力波」や超大質量のブラックホール連星を見つけるには

宇宙物理学における宇宙誕生最初期に急激な膨張が起こったとされる「インフレーション宇宙モデル」。このインフレーションの痕跡「原始背景重力波」はナノヘルツという非常に長い周期の重力波で観測されるだろうということは、これまでの記事でも紹介してきました。

では、その「ナノヘルツ重力波」を捉えるには? 刊行とともに大きな話題となっている『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から、銀河系の地図から重力波を見つける方法と日本で計画されている宇宙望遠鏡について紹介します。

*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

銀河系内の星は各々、その他の天体からの重力の影響を受けて運動しています。そして、非常に長い波長の重力波が、天の川銀河を通過しているとしましょう。その重力波の起源は、宇宙初期のインフレーション現象や超大質量のブラックホールが連星をなしたもののどちらでもかまいません。

重力波によって空間は伸び縮みします。重力波によって変位が生じるのは、重力波が横波のためですから、これは進行方向に垂直な面内です。

一般相対性理論は、等価原理を満たします。このことは、ある1点を観測しても、それだけでは重力の強さ、そして重力の存在そのものはわからない、ということを意味します。このことから個々の天体の運動だけを測定しても、重力の影響を抽出することはできません。

実際には、単独の星の場合は銀河系内の重力による運動、そして連星の場合は連星としてのケプラー軌道を公転する運動が支配的です。ある星を観測して、あるいは、ある連星の観測をしても、その観測だけから重力波の影響を取り出すことは不可能なのです。

図を見てください。

これは重力波がこの紙面に対して垂直に通過したときの、銀河系内の星々の見かけの運動を概念的に表したものです。

アストロメトリ(=位置天文学)専用の宇宙望遠鏡ガイア衛星を用いて2つの星を観測しているとします。重力波の影響は、星どうしの間隔がある方向には伸びるような、それとは垂直方向には縮むような動きとなります。

重力波は重力の影響が変動する現象です。そのため、重力波を検出するには、少なくとも重力波の波長程度に離れた星どうしの運動を測量する必要があります。この事情は、ちょうどパルサータイミング法で地球とパルサーの間の距離が重力波で伸び縮みする現象を、パルサーからの電波の到着時刻のずれとして、重力波の影響を検出することに似ています。

では、とても精度よく星の位置を観測できればどうでしょうか。

お互いに離れた星の間の位置の変動から、重力波を検出できるのではないでしょうか。もちろん、実際の星の運動は特定の方向でなくランダムな向きのはずですが、多数の星を観測すれば、統計的に平均を取ることで、そうしたランダムな運動はほとんどキャンセルできるはずです。

このように、銀河系内の超精密な星の地図を作ることができれば、そこから重力波による影響を抽出できると期待されます。