「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」は大彗星にならないという予測が発表

AI要約

彗星の明るさを予測することは非常に難しいが、最近発見された「紫金山・ATLAS彗星」は核の崩壊が始まっている可能性が指摘され、明るさが予想より弱くなる可能性がある。

彗星は古くから注目される天体で、予測される出現時期によっては肉眼で観測できる大彗星となることもあるが、予測の信頼性は高くない。

彗星の明るさ予測の困難さは、彗星の核の性質や太陽との距離、核の崩壊など複雑な要因によるものであり、正確な予測は難しい。

「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」は大彗星にならないという予測が発表

長い尾を持つ特徴的な天体である「彗星」は注目度が高く、その予測は一般の人々の間でも話題になります。その一方で、彗星の明るさを予測することは極めて難易度が高く、予想が大きく外れることも珍しくありません。

最近では「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」が2024年10月初旬に肉眼でも見える大彗星になると予測されており、注目を集めています。そんななか、アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)のズデニェク・セカニナ氏(Zdeněk Sekanina)は、紫金山・ATLAS彗星に関するプレプリントを2024年7月8日に「arXiv」に投稿しました。それによれば、紫金山・ATLAS彗星は既に本体である核の崩壊が始まっているため、太陽に接近する前に完全に崩壊してしまい、予想ほど明るくはならないだろうという悲観的な予測が述べられています。

ただしセカニナ氏自身が述べているように、この研究の目的は彗星観測を期待している人々を失望させるためではなく、その期待に対する妥当な科学的議論を提起するためであるとしています。

「彗星」は多種多様な天体の中でも最も注目を集める天体と言っていいでしょう。非常に長い尾を引くその特徴的な姿は、実に数千年にわたって観測記録が残されています。数百年前までは主に災害や王の死など不吉な出来事の前兆と見なされて来ましたが、天文学が発達して正確な彗星の出現予測ができるようになると、その珍しさと美しさから、徐々に観測自体が注目されるようになってきました。

観測技術の発達によって彗星は数千個以上発見されていますが、簡単に観測できる大彗星となると数が限られます。機材が無くても目撃が可能な、肉眼でも見える明るさになる彗星となると極めて数が少なく、出現するのは大体10年に1~2個程度であると言われています。直近では2020年に0等級まで明るくなった「NEOWISE彗星(C/2020 F3)」が大きな話題となりました。

ただし、彗星の明るさの予測は非常に難易度が高いことで知られています。例えば、先述のNEOWISE彗星の場合は最大でも3等級と予測されていたのに対し、実際には0等級まで明るくなる嬉しい誤算がありました。

その一方で、悲惨な結果に終わった予測もあります。例えば、2012年に発見された「ISON彗星(C/2012 S1)」は2013年にマイナス等級の大彗星になるとも予測されていましたが、実際には肉眼では容易に観測できない5等級に留まりました。また、2019年に発見された「ATLAS彗星(C/2019 Y4)」は1等級以上の明るさになると期待されながら、実際には肉眼で観測可能な明るさにはなりませんでした。

彗星の明るさの予測が難しい理由は、彗星そのものの性質にあります。彗星の本体である彗星核は主に岩石でできていますが、水、二酸化炭素、シアン化水素などの揮発しやすい固体が豊富に含まれています。彗星が太陽に接近すると、彗星核に含まれる揮発成分は昇華します。すると、揮発成分であるガスと昇華の過程で岩石から分離した塵の混合物が彗星核の周りを覆う大気である「コマ」を形成し、さらにその一部は尾となって宇宙空間へと飛び出します。このガスや塵に反射や散乱された太陽光を、私たちは彗星として観察します。

しかし、彗星核からのガスや塵の放出量は太陽に近づけば近づくほど増えるものの、太陽との距離で単純に変化するわけではないことが知られています。例えば、多くの彗星では太陽に接近しても中々明るくならない停滞状態がしばしば観察されます。これに加えて、彗星核は脆く、揮発成分の圧力で砕けてしまうことがあります。彗星核の崩壊は通常であれば揮発成分の放出量が増える太陽への最接近前後で起こるものですが、先述のISON彗星は太陽からはるかに遠い場所で既に分裂が始まっていたことが示唆されていますし、ATLAS彗星は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」によって実際に数十個の破片に分裂した様子が撮影されています。ただし、彗星核が分裂に至る詳細なメカニズムはよく分かっておらず、彗星の明るさを予測することの難易度を上げています。

そのような背景がある中で、「紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)」は肉眼で容易に観測できる大彗星になると予測されています。2023年1月に中華人民共和国の紫金山天文台で、同年2月にATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)に組み込まれている南アフリカ共和国の南アフリカ天文台でそれぞれ独立して観測されたこの彗星は、2024年9月27日に太陽から約5900万kmの距離まで最接近し、同年10月初旬には最大で2等級という肉眼で容易に観測できる明るさに達すると予測されています。