手術ができない…抗菌薬の原料・原薬100%中国依存の恐怖 製薬各社が国産急ぐ深刻理由

AI要約

感染症の治療や予防に欠かせない抗菌薬の国産化が加速している。政府が抗菌薬を重要物資に指定し、製薬会社も国内生産を急いでいる。

明治ホールディングス傘下の「Meiji Seikaファルマ」が30年ぶりにペニシリン原薬の生産を再開。自給自足を目指す取り組みが進んでいる。

岐阜工場では国内最大級の設備と補助金による技術導入で、生産効率や品質向上に取り組んでいる。

感染症の治療や予防に欠かせない抗菌薬の原料と原薬の「脱中国」に向けた取り組みが加速している。抗菌薬は供給がなくなれば適切な治療や手術ができなくなるため、まさに日本人の〝命綱〟といえる。政府は経済安全保障の観点から抗菌薬を「特定重要物資」に指定。ほぼ100%という中国依存のリスクを減らす必要性が高まっており、製薬会社が国産化を急いでいる。

■30年ぶりに生産再開

明治ホールディングス傘下の「Meiji Seikaファルマ」の岐阜工場(岐阜県北方町)では、かつて東洋一とされた高さ約11メートル、容量165キロリットルのタンクが存在感を放っている。その正体はペニシリン系抗菌薬の原料・原薬を製造するための発酵設備で、三友(みとも)宏一工場長は「ペニシリンをこの規模でつくれる工場は現時点で国内にはない。最短、最速、低コストの生産が実現できる」と胸を張る。

同社は抗菌薬の自給自足を目指す国の支援を受け、約30年ぶりにペニシリン原薬の生産を再開。年間200トンの原料生産を目標に令和7年中に本格製造に入り、12年までにその先にある原薬の量産体制の整備完了を目指している。

岐阜工場は昭和46年にペニシリンの原薬工場として操業を開始。平成6年まで製造を続けていたが、採算性の問題で事業を撤退していた。当時の従業員も事業に加わり、約140人で生産に向けた準備を進めている。原薬の国産化が実現すれば、医薬品のサプライチェーン(供給網)が盤石化する。三友氏は「社会的課題に貢献できるということで従業員のモチベーションは高い」と語る。

生産菌株を保管し、国内最大級の大型培養設備や排水処理設備を保有していた岐阜工場。これまでの設備を活用しつつ、国の補助金により最新の技術も導入した。かつては手作業で負担の大きかった原料のタンクへの投入を自動化したり、製造記録を電子化したりするなどして、若い世代や女性も参入しやすい環境を整えている。

■薬価安く採算性課題