銀河系の精密地図を作るには?ガイア衛星を用いて「星までの距離」と「星の運動」を調べる方法

AI要約

宇宙物理学における宇宙誕生最初期に起きた急激な膨張を示す「インフレーション宇宙モデル」と、その痕跡である「原始背景重力波」の観測について述べられています。

『宇宙はいかに始まったのか』から、ガイア衛星による天の川銀河の観測と地図作りの重要性が紹介されています。

ガイア衛星は約20億個の恒星を観測する高精度な宇宙望遠鏡であり、アストロメトリによる天体の位置測定に貢献しています。

銀河系の精密地図を作るには?ガイア衛星を用いて「星までの距離」と「星の運動」を調べる方法

宇宙物理学における宇宙誕生最初期に急激な膨張が起こったとされる「インフレーション宇宙モデル」。このインフレーションの痕跡「原始背景重力波」はナノヘルツという非常に長い周期の重力波で観測されるだろうということは、これまでの記事でも紹介してきました。

では、その「ナノヘルツ重力波」を捉えるには? 刊行とともに大きな話題となっている『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』から、「ガイア衛星」の行っている天の川銀河の精密観測とその銀河系の地図作りについて詳しく紹介します。

*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

前の記事で紹介したように、天の川銀河の恒星の分布、そしてそれらの運動を理解することは、天の川銀河の成り立ちを知る手がかりにつながります。さらに、ダークマターとよばれる未知の物質を探ることにもつながり、これらは現代天文学における重要な課題です。

そこで、これまで用いられていたヒッパルコス衛星をグレードアップしたアストロメトリ(=位置天文学)専用の宇宙望遠鏡として登場したものが、2013年に欧州宇宙機関が打ち上げた「ガイア衛星」です。

ガイア衛星は、約20億個近くもの恒星を観測し、その位置を測定するために現在も稼働しています。

極めて明るい恒星に対しては、その天体の方向の測定精度は約0・000007秒角です。そして、我々の銀河中心近くの恒星までの距離を10パーセントの精度で測定できるように設計されています。

これだけの高精度で天体の位置を測定できるため、重力場中の光の曲がりの測定から、一般相対性理論の検証にも貢献することが期待されています。ちなみに、ガイア衛星は、太陽ー地球のラグランジュ点L2の近くにとどまって観測を行っています。

ここでラグランジュ点とは、質量を持つ2つの天体(この場合は太陽と地球)が相互の重心の周りを回っている中に、3つ目の小質量天体(この場合はガイア衛星)を配置したとき、2つの天体からの重力と円運動する小質量天体に働く遠心力がつり合う点のことをよびます。

太陽ー地球のラグランジュ点は5つあることがわかっていますが、このうちの1つがL2点です。

この場所は、衛星から見て太陽と地球が常に同じ方向にあるため、太陽光の影響を制御することが比較的容易となり、熱的に安定な観測が可能となります。太陽からの光が直接当たると、衛星の本体や装置の温度が上昇し、それにより精度の高い観測が難しくなります。