天の川銀河の中心には何があるのか?太陽質量の約10億倍の大質量の天体「クェーサー」とはなにか!?

AI要約

宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する書籍『宇宙はいかに始まったのか』が時空の歪みとして捉えられた謎の重力波による衝撃的な観測事実から始まります。

天の川銀河の中心に存在する巨大な質量天体として、「いて座Aスター」の存在が観測され、これが大質量ブラックホールの証拠として解釈されています。

銀河系中心で観測された星「S2」を用いて、大質量ブラックホールの存在が推定されており、その重力場の影響はまだ明確に検出されていません。

天の川銀河の中心には何があるのか?太陽質量の約10億倍の大質量の天体「クェーサー」とはなにか!?

時空の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。

わたしたちは天の川銀河の中に暮らしています。では、天の川銀河の中心にはなにがあるのでしょうか?この問いを起点に、宇宙に存在する大質量天体について見ていくことにしましょう。

*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

天文学者、ラインハルト・ゲンツェル(ドイツ)とアンドレア・ゲズ(米国)はそれぞれの観測チームを主導し、天の川銀河の中心に太陽400万個分に相当する巨大な質量が集中していることを観測で明らかにしました。これが「いて座Aスター」です。

もちろん、太陽400万個分もの明るい天体はその領域で見つかっていません。よって、大質量のブラックホールの証拠だと考えられています。実際、彼らの観測では、銀河系中心を運動する恒星の軌道観測から、その大質量が推定されています。

銀河系中心における代表的な観測対象は「S2」と名付けられた星です。ただし、その星の銀河系中心までもっとも近くなる距離でさえ、およそ120天文単位(太陽と地球の間の平均距離の120倍)もあります。

この中心天体がブラックホールだとすれば、そのシュバルツシルト半径は約1200万キロメートルにもなりますが、天文単位に換算すれば1天文単位に少し届かない程度です。

つまり、S2のブラックホールへのもっとも近づく点は、シュバルツシルト半径の100倍以上もあり、S2の運動はニュートンの万有引力を用いても説明できます。

銀河系中心の大きな質量は、巨大ブラックホールが担っていると考えられています。しかし、そのブラックホールの表面はおろか、その強い重力による一般相対性理論の効果も明確に検出されていません。

2020年、ゲンツェルとゲズのノーベル賞受賞に対して、ノーベル賞選考委員会の受賞理由の中では、「超大質量ブラックホール」ではなく、「超大質量のコンパクトな天体」という言い回しが用いられています。これは選考委員会としての公式な見解であり、多くの天文学者は彼らが発見した天体は巨大ブラックホールだと信じています。

一方、多くの物理学者は、より慎重な言い回しである「巨大ブラックホール候補」という呼び名を好みますが、ここでは、簡単のため、たんに巨大ブラックホールとよびます。