これほど「完全に近い骨」が見つかったのには理由がある…まだ幼かった「恐竜の遺骸が体験した」意外すぎる顛末

AI要約

北海道大学で発見された恐竜「ニッポノサウルス」の再研究により、新たな特徴が明らかになった。

特に、上角骨や手の指骨、軸椎などに独自の特徴が見られた。

これらの発見は、恐竜の進化や生態についての新たな知見を提供している。

これほど「完全に近い骨」が見つかったのには理由がある…まだ幼かった「恐竜の遺骸が体験した」意外すぎる顛末

【シリーズ・小林快次の「極北の恐竜たち」】

リード部分今から何千万年も昔に、地球の陸上に君臨していた恐竜たち。シダ類やソテツ類の茂った暖かい地域で暮らしていたイメージがあるかもしれないが、彼らは地球上のあらゆるところに進出していた。南極大陸からも、北極圏からも恐竜の化石は発見されているのだ。

この連載では、北極圏のアラスカで15年以上にわたって調査を続ける筆者が、極圏での厳しい環境で、どのように恐竜たちが暮らしていたのか、その生態と進化の謎に挑むーー。

前回の記事では、1934年(昭和9年)に当時日本領だったサハリンから化石が発見され、初めて日本人によって発掘・研究・命名された恐竜「ニッポノサウルス」について取り上げました。

北海道帝国大学(現・北海道大学)の長尾巧教授が発掘したのは、全身の6割という完成度の高い全身骨格でしたが、頭骨の標本が不十分だったために、成体ではなく幼体・亜成体である可能性が指摘され、この恐竜の有効性が議論となりました。

しかし、70年の時を経て、北海道大学の大学院生だった鈴木大輔氏が、ニッポノサウルスの再研究を始め、さまざまなことを明らかにし、2004年に衝撃的な論文を発表しました。鈴木氏の研究、論文はどのようなものだったのでしょうか。

長尾教授は、大きな塊に3つの骨(左側の上顎骨、頭頂骨、歯骨)が、小さな塊にも4つの骨(前頭頂骨、後眼窩骨、鱗状骨、方形骨)が含まれていると記載していたが、鈴木氏が追加のクリーニングを行った結果、大きな塊には6つの骨(左側の前上顎骨、上顎骨、涙骨、頬骨、歯骨、上角骨)がつながった状態で含まれていることが明らかになった。

いっぽうで、長尾教授が記した小さな塊は、長年の間に何度も引越しをしているうちに紛失してしまったこともわかった。

保存されていた前上顎骨の一部は、北アメリカのランベオサウルスと似た特徴を持っており、垂直に伸びる溝がない。上顎骨の前面が棚状になって前上顎骨と結合する特徴は、ハドロサウルス科の中でもランベオサウルス亜科に見られるものである。

頬骨の下部は比較的鋭角に曲がっており、これは北アメリカのヒパクロサウルスに共通する特徴である。

歯骨後方部の筋突起は垂直ではなく、やや前に傾いている。上角骨の頂点部分は歯骨の筋突起に沿ってがっしりしており、他のハドロサウルス科では細いのに対し、ニッポノサウルスでは太く、この点が独自の特徴とされる。

ニッポノサウルスの脊椎は、環椎、軸椎、12個の頸椎、8個の胴椎、3個の仙椎、そして35個の尾椎が比較的よく保存されている。神経弓と椎体の縫合線がまだ完全に癒合していないことから、ニッポノサウルスが亜成体であることが示唆される。軸椎の上に伸びる神経棘があまり後ろに広がっていないことも、ニッポノサウルスの独自の特徴とされる。

また、肩甲骨は北米のランベオサウルスやコリトサウルスのように比較的まっすぐであるが、ヒパクロサウルスやパラサウロロフスは強く湾曲している。ニッポノサウルスの前肢は比較的華奢で、尺骨の近位部にある肘頭突起やその綾もあまり発達していないため、まだ成長しきっていないことが示唆される。

中手骨の両骨端は他のハドロサウルス科よりも広く、これも亜成体の特徴と考えられる。第4指の最も近位の指骨の遠位部に膨らみがあり、これもニッポノサウルスの独自の特徴とされる。

腰の骨の一つである坐骨の遠位部の形状(イスキアルブーツ)は、パラサウロロフスやヒパクロサウルスに似ている。また、第4指の指骨と第2指の指骨の長さがほぼ同じであり、これらの特徴は多くのランベオサウルス亜科にも見られるものである。

やや専門的に書いてしまったが、鈴木氏の研究は、ニッポノサウルスに固有な特徴が上角骨、軸椎、手の指骨に見られることを明らかにしたのだ。

さらに、上顎骨が棚状の構造で前上顎骨を受け止めるというランベオサウルス亜科の特徴や、鼻骨が外鼻腔に達していないことも記載している。