リュードベリ原子センサーを搭載した観測衛星が切り開くリモートセンシング 「デジタル放送衛星」の活用でコストダウン

AI要約

人工衛星を活用したリモートセンシング技術に新しい手法が導入される可能性がある。

米航空宇宙局(NASA)の研究グループがリュードベリ原子を活用し、氷の流れや積雪量などを計測する技術を開発。

リュードベリ原子を使用したリモートセンシングでは、既存の放送衛星の電波を利用し、送信機の搭載が不要な革新的な仕組みを導入。

リュードベリ原子センサーを搭載した観測衛星が切り開くリモートセンシング 「デジタル放送衛星」の活用でコストダウン

人工衛星を活用して海抜や雲の動きなどのモニタリングを可能にしたリモートセンシング技術に、革新的な手法が導入される日が訪れるかもしれません。宇宙開発・天文学ニュースサイトの「Universe Today」は、観測衛星に搭載された「リュードベリ原子センサー」によって地球の氷河などの対象を計測する手法を紹介しています。

アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)のDarmindra Arumugamさんが率いる研究グループは、リュードベリ原子を活用して、氷の流れや氷棚の進化、積雪量、岩盤のマッピング等を網羅するリモートセンシング技術を考案し、2022年にNASA革新的先進概念(NIAC)プログラムのフェーズIで資金調達を受けました。

リュードベリ原子とは、レーザー照射や電子との衝突などによって、主量子数(※)が50~100程度という“十分大きな”高励起状態にある原子のことです。リュードベリ原子は電気双極子モーメントが高いため、電磁場に大きく反応します。この性質を応用することで、周波数が30MHz~300MHzのVHF(超短波)から12GHz~18GHzのKuバンドまで、幅広い周波数帯の電波を捉えるセンサーとして活用できるといいます。

※…量子数の一種。量子数によって、原子や分子の電子状態やエネルギーが決まる。量子数には主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数の4種類があり、主量子数は電子殻の数と関係がある。

研究グループによると、ルビジウム(Rb)やセシウム(Cs)といった第1族元素(アルカリ元素)の原子に、ある条件を満たす2つのレーザーを照射することで、光学的に特殊な状態(電磁波誘起透明化)をもつリュードベリ原子を作り出すことができるといいます。高励起状態にあるリュードベリ原子は、対象から反射してきた電波の影響を受けることで、光学的な変化が生じます。この変化を通じて、電波の位相や振幅を知ることができ、湿度などの情報が得られるのだといいます。

電波を活用して大気や水の状態を観測できるシステムとしては、レーダーシステムが挙げられます。従来のレーダーシステムを活用したリモートセンシングでは、送信機から放射されて対象で反射した電波を受信機でとらえる必要があるため、受信機と送信機の双方を観測衛星に搭載する必要がありました。

いっぽう、研究グループが考案したリュードベリ原子を活用したリモートセンシングでは、Signals-of-Opportunity(機会の信号)として既存の放送衛星から送信された電波を利用するため、物体で反射した電波を捉えるための受信機だけがあれば十分だといいます。Universe Todayは、複数の周波数帯に対応した高価な送信機を観測衛星に搭載せずに済むだけでなく、各周波数帯ごとに観測衛星を用意せずとも1つのリュードベリ原子センサーのみで幅広い電波を受信できる点が、従来のレーダーシステムを活用した電波観測衛星と比べて優れた点だと評価しています。