裁判員制度15年 静岡県内辞退率、60~70%台で高止まり 心理的負担軽減が浸透の鍵

AI要約

裁判員制度は15年を迎え、裁判員の選任や実績について報告された。裁判員裁判の模擬体験や意見交換会などを通じて、市民の理解を深める取り組みも進められている。

裁判員制度には依然として辞退率の高さが課題となっており、市民間での情報共有不足が指摘されている。多くの市民が裁判に参加する際の心理的負担を克服するため、裁判員経験者や裁判官による体験共有が必要とされている。

裁判員制度の浸透を促進するためには、裁判員裁判を話題にする取り組みや経験共有の場を増やすことが重要である。

裁判員制度15年 静岡県内辞退率、60~70%台で高止まり 心理的負担軽減が浸透の鍵

 裁判員制度は今年、開始から15年を迎えた。静岡地裁によると、県内で2009年5月から今年3月末までに選任された裁判員は地裁本庁と沼津、浜松両支部の3カ所で計1955人、補充裁判員は675人で、346人の被告に判決を言い渡した。実績を積み重ねてきた一方、辞退率は60~70%台に高止まりする。有識者は裁判官や裁判員経験者が体験を伝える機会を拡充し、制度への理解を深める必要性を訴える。

 「裁判所には一生踏み入れることはないと思っていた」。2月に静岡地裁で開かれた法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)との意見交換会に参加した裁判員経験者の40代女性は、裁判員に選ばれる前の心境を包み隠さず語った。5月に行われた裁判員裁判の模擬体験会では、一般市民が裁判員と法曹三者の役を務め、架空の放火未遂事件を題材に公判の流れを実践した。参加者からは「模擬ですら緊張した」「裁判員が有罪を出していいか悩むとき、(裁判官は)どう負担を和らげてくれるのか」などの意見が上がった。

 国民の司法への理解を深める目的で始まった裁判員制度。ただ、最高裁が毎年行っている意識調査によると、裁判員制度の印象を尋ねる質問で「裁判所や司法が身近になっている」「裁判の手続きや内容が分かりやすくなっている」に肯定的な意見の割合は、年々高まるどころか低下している。刑事裁判に参加する際の懸念材料を問う質問では、「責任を重く感じる」「素人に裁判は難しい」が突出して多い。こうした市民意識を背景に、これまで選定された裁判員候補者のうち辞退した人の割合は全国で63・9%(今年3月末時点)に上る。県内の地裁本庁、沼津、浜松両支部でも制度開始から辞退率は上昇し、浜松支部では20年に79・2%となった。他方、最高裁のアンケートでは裁判員経験者の9割以上が「よい経験と感じた」と回答している。

 やってみれば「よい経験」なのに、なぜ辞退する人は増え、制度は浸透しないのか。裁判員制度に詳しい専修大の飯考行教授(52)=法社会学=は市民間で経験を十分に共有できていないことが問題だと指摘する。多くの市民が裁判に参加する際の懸念材料に心理的負担を挙げている点について「不安感が増大して辞退できる理由を探してしまうのではないか。裁判官や裁判員経験者が実情を伝えることで軽減されるはず」と話す。

 市民の司法参加を促進するボランティア「裁判員ACT」(大阪府)のメンバーで、長年裁判員経験者への聞き取りを行ってきた川畑恵子さん(62)も「刑事裁判がものすごく負担で怖い、重い、しんどいというイメージが必要以上に膨らんでいる部分はある」と指摘。辞退率の改善には「とにかく裁判員裁判を話題にすること。経験を共有できる場を増やすことが欠かせない」として、一例として裁判員経験者と法曹三者の意見交換会の一般公開を提案する。