「少年院は誰にも殴られない安全な場所」非行少年と向き合う作家が語る、少年犯罪の背景

AI要約

少年院は、非行少年の更生を支援する場所であり、過去に少年院にいた作家の中村すえこさんがその重要性を語る。

近年の少年院在院者には貧困や虐待といった問題が背景にあり、家庭や社会に居場所がない子どもたちが増えている。

少年院は暴力や虐待から逃れ、安全な場所として信頼できる大人との出会いを提供している。社会全体で子どもたちの支援と関心が必要だと中村さんは訴える。

「少年院は誰にも殴られない安全な場所」非行少年と向き合う作家が語る、少年犯罪の背景

「少年院は罪を償う場所ではなく、更生をする場所。少年を教育するところなんです」と話すのは、自身も少年院に入院していた過去をもつ、作家の中村すえこさん。

少年院は、集中的な教育が必要だと判断した非行少年を社会からいったん引き離し、更生のための支援をおこなう施設だ。「私が少年院にいた頃は、元気に非行していた少年少女が多かった時代。でも、今の子どもたちはちょっと違う」と中村さんは言う。

中村さんは15歳で暴走族の総長に上り詰め、抗争による傷害事件で逮捕されて少年院へ入った。退院後、自らの過去を世間にオープンにしてからは、非行少年・少女の更生を支える活動に奔走している。

「今は、自分ではどうすることもできない、“非行をしないと生きていけなかった子たち”が圧倒的に多いと感じています。深刻な貧困や虐待などといった問題が、子どもたちの身に起きているんです」全国の少年院を周り、非行少年・少女たちの声に耳を傾ける中村さんに 、少年犯罪の背景にあるものを聞いた。

中村すえこ・プロフィール

1975年、埼玉県生まれ。作家、映画監督。15歳でレディース・紫優嬢の4代目総長となるが、抗争による傷害事件で逮捕され女子少年院に入院。17歳で仮退院後、レディースを破門となり、覚醒剤に手を出し再逮捕。2009年、少年院出院者自助グループ「セカンドチャンス!」の創立メンバーに参加し、自らの経験をもとに講演活動などを行う。ドキュメンタリー映画『記憶-少年院の少女たちの未来への軌跡』の監督を務める。2020年には通信制大学を卒業し、44歳で高校教員免許を取得。現在、高校の社会科教師を務める。4児の母。近著に「帰る家がない 少年院の少年たち」(さくら舎)。

2024年5月の警視庁・少年事件課の発表によると、刑法犯少年の検挙・補導人員は、ここ10年ほど減少傾向で推移していたが、令和4年からは増加傾向に転じているとされる。そして、その犯罪の背景にある問題も深刻だ。

法務省は2023年、非行少年の幼少期逆境体験(ACE:Adverse Childhood Experiences)を初めて分析し、23年版の犯罪白書にて公表した。少年院在院者に、「18歳までにつらい体験をしたかどうか」を調査したところ、約6割の少年少女が「家族から身体的な虐待を受けたことがある」と回答したことが明らかになった。他にも、約4割が精神的な虐待を受けていたこと、また、家族の精神疾患・依存症なども背景にあることが分かっている。

「少年院では、清潔な服と安心して寝られる寝床があって、温かいご飯が出てくる。入院して初めて、『一日三食ご飯を食べる』ということを知った子もいます」

少年院に来るまで、最低限の衣食住すらままならなかった子どもたちがいるのだ。

「もちろん、どんなに大変な環境で生きてきたとしても、誰かを傷つけたり騙したりしていいわけではないし、物を盗んでいいわけではない。でも、家庭や社会に居場所がなく、当たり前の生活を送ってこられなかった子たちが増えているんです」

傷害と詐欺で逮捕され、非行の程度が深い《第二種》に分類される久里浜少年院(神奈川県横須賀市)に入った19歳の少年は、少年院のイメージを「職員が自分たちをいじめたり、毎日喧嘩が起きている場所だと思っていた」と話したという。

「でも、実際に入院してみて、彼は、少年院を『悪くないところだった』と言うんです。罪を犯すしか術がなかった子どもたちが、『ここ(少年院)にいたら殴られないし、命の危険も感じない。ここは安全な場所』だと。私が少年院に入ったときには、こんなところ一刻も早く出たいと思っていたので、驚きました」

中村さんはそんな子どもたちと向かい合い、会話を重ねてきた。

「特に『少年院に来て初めて、信頼できる大人に出会えた』と話す子が、とても多いんです。それって裏を返せば『これまで頼れる大人が一人もいなかった』ということ。

家族はもちろん、幼稚園、小・中学校の先生たち、お友達のお母さんはどうだったんだろう。そういう人たちが誰一人として、その子のことを見ないふりをしてきたって、社会が抱える大きな問題ですよね。悪いことをした子どもたちを正当化したいわけではないけれど、大人の無関心が子どもたちを非行に走らせている、という因果関係は少なからずあると思う。こんな社会のままじゃダメだよね、って強く感じます」