認知症の進行を抑制する2例目の新薬、日本での承認が決定【第一人者が教える 認知症のすべて】

AI要約

8月1日、厚労省の専門家部会が認知症の新しい薬「ドナネマブ」の製造販売承認を了承しました。

 昨年9月に日本の製薬会社エーザイなどが開発したレカネマブが承認されましたが、ドナネマブはレカネマブに続いて2例目の治療薬となります。

 ドナネマブはアミロイドβを除去する薬であり、アルツハイマー病の進行を遅らせます。両薬ともモノクローナル抗体を含み、アミロイドβの一つの場所にだけ反応する特性を持つ。

 レカネマブはプロトフィブリルに、ドナネマブは大きな塊に作用するため、効果や副作用に微妙な差があるが、直接比較は難しい。

 薬価は500万円台であり、ドナネマブの方が月1回の投与頻度が少なく、利便性が高い。ただし、患者の日常生活との兼ね合いも考慮して選択する必要がある。

認知症の進行を抑制する2例目の新薬、日本での承認が決定【第一人者が教える 認知症のすべて】

【第一人者が教える 認知症のすべて】

 8月1日、厚労省の専門家部会が認知症の新しい薬「ドナネマブ」の製造販売承認を了承しました。今後は厚労大臣の正式な承認を経たあと、薬価が決められ、秋冬くらいから臨床現場で使われることになるでしょう。

 昨年9月に日本の製薬会社エーザイなどが開発したレカネマブが承認されましたが、ドナネマブはレカネマブに続いて2例目の治療薬となります。レカネマブ、ドナネマブはどんな薬か? レカネマブが承認されるまでは、アルツハイマー病の治療は対症療法しかありませんでした。レカネマブは、アルツハイマー病の原因物質アミロイドβを除去する働きがあり、認知症の進行を抑制する初の薬となります。ドナネマブも、アミロイドβを除去する薬。米国の大手製薬会社イーライリリーが開発した薬となります。

 どちらの薬の名前にもつく「マブ(mab)」。これは、モノクローナル抗体(monoclonal antibody)を意味しています。モノクローナルのモノは「単一」、クローナル「まじりっけのない集合」ということで、一つのタンパク質の一つの場所にだけ反応する薬です。

 タンパク質は長く、いろんな場所に反応すると副作用も起こりやすい。アルツハイマー病の薬であるレカネマブ、ドナネマブは、アミロイドβというタンパク質の一つの場所にだけ反応して、副作用は少なく、認知症の進行を遅らせます。

 ちなみに、レカネマブ、ドナネマブは薬の一般名で、商品名は違う名前をつけなくてはなりません。レカネマブの商品名は「レケンビ」。ドナネマブは、日本に先立って承認、販売となったアメリカで「ケサンラ」という商品名がついており、日本でも同じような名前になることと思います。ケサンラ、スペイン語の「ケセラセラ(なるようになるさ)」と音が似ていますね。

 レカネマブもドナネマブもアルツハイマー病の原因物質アミロイドβを除去する薬ですが、作用する対象が異なります。

 認知症は、アミロイドβが蓄積することで認知機能が低下します。レカネマブの場合、アミロイドβが蓄積して大きな塊になる前、特に神経毒性が強いとされるプロトフィブリルに作用すると考えられています。

 一方、ドナネマブはアミロイドβが凝集した大きな塊に作用するとされています。臨床試験では、レカネマブは薬を投与して1年半後、認知機能低下を27%低下させるとの結果。ドナネマブは1年半後で29%抑制との結果でした。

 副作用に関しては、ドナネマブはレカネマブよりも脳の出血や腫れが高い頻度で出ていました。

 効果、副作用どちらに関しても、同じ患者さんで比較したわけではありませんので、どちらがいい・悪いということは言えません。厚労省の担当者も、「1つの薬を直接比較した臨床試験ではなく、どちらの効果と副作用が大きいかは言及できない」と述べています。

 費用は、アメリカでドナネマブが年間500万円台。日本では保険適用で処方されるわけですが、レカネマブより少し高くなるかもしれません。

 使い勝手に関しては、レカネマブは月2回、2週間に1回の点滴で、ドナネマブは月1回になります。

 レカネマブに関して、現在は糖尿病のように自己注射できる方法も研究されているものの、現段階では新薬のドナネマブのほうが、通院する回数が少なくて利便性が高いように感じるかもしれません。

 現在レカネマブを使っている人も、新薬に切り替えたい場合は、手続きなどが必要になるかもしれませんが、可能だとみています。

 ただし、前述したように、レカネマブとドナネマブで作用する対象が異なります。実臨床で効果がどれくらい異なるかは、今後徐々にわかってくるでしょう。

 私個人としては、月2回点滴のレカネマブ(現段階では)と、月1回点滴のドナネマブ、どちらをおすすめするかというと、月2回のほうです。

 その理由は、薬の違いからではなく、「月2回クリニックに行く」ことで日々の生活の質が高まるからです。

 私の患者さんには、関東圏外の遠方から来院される方も少なくない。月2回、新幹線や飛行機でいらっしゃるのは大変な苦労だと思いますが、皆さんその機会をお子さんやお孫さんと集まって食事をする日にしていたり、映画やショッピングを楽しむ日にしていたりと、人生をエンジョイするものに変えています。

 お化粧をし、外出着をまとい、診察がなければなかなか会えなかった家族や友人、医師や看護師と交流する。

 これらが、脳の活性化に大いに役立っていることは間違いないでしょう。

(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)