「突然、2階の窓ガラスが割れて大勢の人が部屋に…」独居老人なら誰でも起こり得る「事件」と、在宅死を望む独居老人が「一人暮らしを続けるための条件」

AI要約

大山勲さんは88歳で独居しており、末期の膀胱癌を患っている。家族もキーパーソンもおらず、孤立した高齢者として生活している。

大山さんは亡き妻の思い出がある自宅で最期を迎えたいという意思を持っていたが、訪問医療やケアマネージャーを入れることに抵抗を感じていた。しかし、ある日突然の「事件」が起きる。

大山さんは見守りパトロールの一環で遭難した状態で自宅にいたが、その状況から彼の病状が悪化している可能性も考えられた。

「突然、2階の窓ガラスが割れて大勢の人が部屋に…」独居老人なら誰でも起こり得る「事件」と、在宅死を望む独居老人が「一人暮らしを続けるための条件」

私の新患となる大山勲さんは88歳。病院からの紹介状には膀胱癌の末期だと書かれていた。一戸建てに一人で暮らしている。妻とは死別しており子供はいない。そしてキーパーソンもいない。つまり万が一のときに頼れる親類縁者がいない――。いわゆく孤立した高齢者である。

大山さんは、亡き妻の思い出が残る自宅で最期を迎えたい意思を示した。そのためには訪問医療やケアマネージャーを入れることが必要だが、家に他人をあがらせる気持ちにはなれず、態度を保留していた。そんな中で「事件」は起きる――。

6000人以上の患者とその家族に出会い、2700人以上の最期に立ち会った“看取りの医者”が、人生の最期を迎える人たちを取り巻く、令和のリアルをリポートする――。

前編記事「「全てを棄てて駆け落ちしたから、頼れる場所はありません」…20歳上の姉さん女房に先立たれ、末期がんに侵された88歳男性が看取り医に明かした「最期を迎えたい場所」」より続きます。

人間は社会的動物と言われている。生物として孤立して死ぬ事は仕方がないが、社会的に孤立して死ぬ事は許されぬ空気がある。

かといってこれだけ高齢者が増えた令和のいま、社会や地域社会が孤老に手を差し伸べられるかといえば難しい状況だ。地域の繋がりは希薄で、実務を担うケースワーカーも人手が足りず、独居生活を送る後期高齢者が病気にでもなれば、担当者によって施設への入所が促される――。

2回目の診察から10日ほど経ったある日、それは起きた。

近年、多くの地域で社会福祉協議会が中心となり、独居の後期高齢者など、孤立した要援護者の「見守りパトロール」が行われているが、大山さんもパトロール対象になっており、定期的な家庭訪問や必要に応じた安否確認などが行われていたが、

その日、大山さん宅を見回りにきた市役所の職員が、チャイムに反応しない彼を心配して救急隊を要請したのである。

その連絡が来たのは夕方であった。救急隊と消防隊が同時に出動し、2階の窓を壊して安否確認を行った。大山さんはベッドの上で発見され、寝込んでいたという。突入する前に携帯電話を鳴らしたというが、電源は落ちたままだった。その大山さんは救急搬送されず自宅にいるという。

短期のうちに病状が悪化したのかもしれない――。

大山さんの自宅に伺い、部屋に入ると、ベッドで寝転がっていた。少しずつ動くのが難しくなってきているようだった。律儀な大山さんは私のために起き上がり、ベッドで正座をしようとするのを止め、寝たままで話をして貰った。ご本人はかなりの大騒ぎに驚いたようでショックを受けていた。

「びっくりしましたわ。ちょっと調子が悪くて横になっていたら、二階からガシャーンと音がして、血相を変えた大勢の人たちが乗り込んできた。

みなさん『大丈夫ですか』、『大丈夫ですか』とえらい勢いで私の身を案じて、脈やら血圧やらを測られましたから…。やっぱり私のような者は、ご迷惑をお掛けしないためにも、ここでの暮らしは諦めて、老人ホームに入らなくてはいかんのですかね」