「東京子ども図書館」が設立50年 家庭文庫から続く子供と本の可能性探求

AI要約

戦後高度経済成長期に始まった東京子ども図書館が50周年を迎えた。個人が自宅で子供たちに本を貸し出す「家庭文庫」を母体に設立され、読書の普及活動を続けている。

設立者の理想を引き継ぎ、子供たちを取り巻く環境が変わる中でも読書の重要性を訴え続けている図書館。児童図書館としてだけでなく研究機関や人材育成の場としても機能している。

「お話」の普及や語り手の育成など幅広い活動を展開し、子供たちだけでなく大人にも本の世界を楽しむ機会を提供している。

「東京子ども図書館」が設立50年 家庭文庫から続く子供と本の可能性探求

絵本や昔話などの貸し出しや読書の普及活動をしている「東京子ども図書館」(東京都中野区)が今年、設立から50周年を迎えた。個人が自宅を開放して子供たちに本を貸し出したり、読み聞かせたりする「家庭文庫」を母体に発足したユニークな私立図書館は、〝子供と本の世界で働く大人〟のための活動を長年、牽引してきた。デジタル化など子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中でも、読書がもたらす可能性を提示し続けている。

■「家」の温かさ

都営大江戸線新江古田駅から徒歩約10分。子供たちの声が響く公園を通り過ぎると、住宅街に赤茶色のレンガ造りの建物が見えてくる。平成9年にマンションの一角から独立し、「新館」として建設された今の図書館は、バージニア・リー・バートンの絵本「ちいさいおうち」を参考に、「長持ちして、年とともに味わいのある建物になるように」設計されたという。

木枠のガラス戸を開けて一歩、足を踏み入れると、心地よい「家」のような温かみを感じる。「みなさん、そう言ってくださるんですよ」。迎えてくれたのは、理事長の張替(はりかえ)恵子さん。窓から柔らかな光の差し込むホールには、図書館の設立者の一人で、一昨年亡くなった名誉理事長、松岡享子さんの笑顔の写真が飾られていた。

■創設者たちの夢

図書館の前身は、戦後の高度経済成長期、翻訳者・児童文学者として知られる石井桃子さん、主婦の土屋滋子さん、そして松岡さんが都内各所で立ち上げた4つの家庭文庫だ。子供と本を愛する女性たちの小さな営みが結集し、昭和49年、子供の読書専門の私立図書館として同館が誕生した。

「卓越した創設者たちが、はっきりと理想を掲げて始めたことは大きい」。図書館が半世紀にわたり人々に支持されてきた理由について、張替さんはこう説明する。

創設時の理念は、今も変わらない。児童図書館としてだけでなく、子供の本や読書についての参考図書館・研究機関として、また、子供の本に関わる仕事をする人のための研修機関として、人材育成や出版活動にも取り組んできた。

語り手が物語をすっかり覚えて語る「お話」の普及は、同館が初期から力を入れてきた活動の一つだ。子供が活字を読めるようになる前から、本の世界に親しむのに有効な手段で、同館では子供だけでなく大人のためのお話会や、語り手の講習会を開催。これまでに1千人を超える語り手を送り出してきた。