NPO法人キッズドア炎上の理由「世帯年収1000万円はもっと負担を」に多子世帯が反発

AI要約

貧困支援を考える際、世帯所得に応じた学費負担を提案する声に対し、一部から疑問の声が上がっている。

多子世帯や所得制限を考慮する必要性が指摘され、貧困支援の在り方が議論されている。

記事では、貧困支援における世帯所得のみならず、家庭事情や社会背景も考慮する必要があるとの意見が示されている。

NPO法人キッズドア炎上の理由「世帯年収1000万円はもっと負担を」に多子世帯が反発

《貧困支援を考えてる人って、すぐ他人の財布を勝手にあてにするよね》

《なんで子どもの学費を親の所得に関連付けてタダにしたり沢山負担させたりするんですか?子どもの権利は平等なんじゃないんですか?》

 貧困世帯を支援する認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長の発言に対し、一部から疑問の声が出ている。発端は「所得に応じた学費負担に」という見出しで掲載された、7月8日付の日本経済新聞のインタビュー記事。その中で、渡辺理事長は世帯年収1000万世帯を引き合いに出し、以下のように発言した。

「本来は国が教育への予算を増やし、国立大を無償化すべきだ。それが難しい場合、年収600万円までは無料、1000万円までは現状の水準、1000万円超は150万円などと、世帯所得に応じて負担を求める仕組みが望ましい」

「子育て世帯に占める所得が年1000万円超の世帯の割合は2021年に24%に上る。一方で子ども食堂で無料の食品を受け取る家庭があり、学費が払えず私立高を中退する子どもも増えている。格差が広がり、履いているげたの高さが異なる中、大学の授業料を引き上げて一律に負担を求めるのは乱暴な考え方だ」

 キッズドアHPによると、渡辺理事長は大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。2009年に。内閣府の認証を受けてキッズドアを設立し、「親の収入格差のせいで教育格差が生じてはならない!」との思いから、経済的に困難な子どもたちが無理なく進学できるよう、日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、子どもの貧困問題解決に向けて活動を広げている。

 そんな渡辺理事長がなぜ批判を浴びることになったのか。

■「世帯所得に応じて負担を…」に敏感に反応した多子世帯

 弱者に寄り添うかに聞こえる渡辺理事長の発言が波紋を広げたのは、「世帯所得に応じて負担求める仕組み」といった発言に敏感に反応する人がいたためだ。

 現在、大学無償化には段階的に緩和されているが、所得制限が設けられている。全国的に取り組みが進んでいるものの、年収600万未満世帯の私立理工農学系進学者や、年収600万円未満の3人以上の多子世帯など、まだまだ制限が多い。世帯年収700万円以上でも無償化の恩恵を受けられず、何とか生活をやり繰りしている家庭も少なくない。

 批判が出たことを受けて渡辺理事長はXで次のように反論した。

「本人がいくら優秀でも、下の兄弟のために、大学進学を諦めてもらわなきゃならない親がたくさんいます。どうやっても行かせられない。『弟の高校を優先するので、自分は大学を諦めます』。そういう子どもに、それはしょうがない、親を恨めというような人もいるのでしょうが、私は、やはりそういう状況は無くした方がいいと思います」

■世帯年収1000万円でもそれぞれ異なる事情

 この渡辺理事長の反論にも主に多子世帯から批判が出ているという。多子世帯に詳しいジャーナリストの中西美穂氏が言う。

「おそらく渡辺理事長は貧困家庭への理解は深いのでしょうが、一般多子家庭の実態がほとんど分かっていないのだと思います。子供が3人以上の多子世帯で、東京や大阪など都市部で生活している場合は、世帯年収が700万円以上あっても生活に余裕のない家庭がほとんど。地域によっては、こども医療費助成に所得制限が設けられていたり、年齢制限があったりします。また、障害がある子供がいることでも、その家庭の負担額は増加します。つまり、家庭によって事情はそれぞれなのに、昔ながらの『世帯年収』で一括りにしようとしていうところに乱暴さを感じる人が多いのでしょう。渡辺理事長の説明はいずれももっともにも聞こえますが、それで世帯年収1000万円の家庭が応能負担する理由に結びつけるのはいささか飛躍があると思います」

 現在、共働きが主流となり世帯年収1000万円世帯そのものは増加傾向にある。ただ、円安やインフレ、住宅費の高騰で生活が苦しい年収1000万円世帯は少なくない。そこに中西氏が言うような、「それぞれの事情」も重なる。渡辺理事長も批判を受けて「年収1000万円以上の方が非常にご苦労されていることは改めて痛感しました」と改めてXで述べている。貧困支援の在り方も常に時代に適したものが求められているのかもしれない。

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