認知症の人は暑さを感じにくい…熱中症対策で注意すべきポイントは?【介護の不安は解消できる】

AI要約

高齢者の熱中症リスクについて解説。自宅での熱中症が多い理由や予防法について述べる。

高齢者の体温調節機能が低下しやすい理由や、脱水による熱中症リスクについて説明。

熱中症予防のための適切な水分補給やエアコンの設定方法、栄養補給の重要性に言及。

認知症の人は暑さを感じにくい…熱中症対策で注意すべきポイントは?【介護の不安は解消できる】

【介護の不安は解消できる】

 今の時期、在宅介護で気を付けたいのが「熱中症」です。総務省消防庁によると、昨年夏に熱中症で救急搬送された人の数は9万人を超え、そのうち半数以上は65歳以上の高齢者と発表されています。熱中症と聞くと、炎天下でのスポーツなど屋外で発生するイメージを持たれやすいですが、最も多い発生場所は自宅なのです。

 認知機能の障害で体温調節機能が低下すると暑さや寒さに鈍くなるので、夏でも厚着をしたりエアコンをつけないで過ごそうとします。通常であれば汗をかいて熱を体外に放散するのに対し、高齢者の場合、熱放散能力が低下して体内に熱がこもってしまう。

 ほかにも加齢によって口腔中枢の感受性が衰えると、喉の渇きを感知しづらく水分補給が不十分になり、脱水を引き起こします。水やナトリウム、カリウムといった体内の電解質のバランスが崩れると、脳の神経伝達に支障を来して「せん妄」を起こすリスクが高く、食欲低下や活動性の低下だけでなく、幻覚や妄想で炎天下の屋外に飛び出して、熱中症で倒れて救急搬送されるケースも少なくありません。とりわけ高齢者は水分を貯蓄する筋肉量が成人に比べて少なく、脱水状態になりやすいので注意が必要です。

 熱中症にならないよう、家族は日頃から水分をこまめに取るよう促し、脱水気味になっていたら経口補水液を飲んでもらってください。

 首を冷やすのも効果的です。頚動脈と呼ばれる首の太い血管を冷やすと全身の体温を下げられるので、凍らせたタオルや市販のクールリングなどを首に巻いておくとよいでしょう。

 また、エアコンをつけていても、部屋の中で直射日光を浴びていたり、湿度が高ければ熱中症になりやすい。以前、私が訪問診療で認知症の方の自宅に伺った際、玄関のドアを開けた瞬間にモワッとした熱気を感じた途端、意識を失い倒れた経験があります。その方は暑さに鈍くなっていたため、部屋の熱気に気付かないまま過酷な環境で過ごされていたのです。部屋の温度が25~28度、湿度が40~60%になるよう、日中はクーラーとサーキュレーターをつけっぱなしにし、家族がいない間に本人がスイッチを消してしまうか心配であれば、外部からリモコンを遠隔操作できるスマートエアコンを検討するのもお勧めです。

 さらに脱水による食欲低下で低栄養状態の人も少なくありません。そういった方には、「イノラス」や「エンシュア・H」と呼ばれる、イチゴやバニラ味の経腸栄養剤を処方しています。固形物の摂取が難しく栄養状態が改善しなければ、かかりつけ医に相談したうえで、食べやすいよう凍らしてシャーベット状にし、おやつ感覚で食べてもらってもいいと考えています。

 話しかけても、いつもより反応が鈍かったり受け答えがおかしい場合には、熱中症で意識障害を起こしている可能性が高いので、すぐに救急車を呼んでください。

▽高瀬義昌(たかせ・よしまさ) 1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了後、麻酔科、小児科を経て、2004年、東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業。