シアスター・ゲイツ「アフロ民藝」、フィリップ・パレーノ「この場所、あの空」 2つの個展

AI要約

米国人アーティスト、シアスター・ゲイツとフランスのアーティスト、フィリップ・パレーノの個展が東京と神奈川で開催中。

シアスター・ゲイツはアフリカ系米国人で、「TOKOSSIPPI」という独自の美学を展開し、多様な作品を展示。

ゲイツの作品は彫刻、陶芸、建築、音楽、パフォーマンスなど幅広いジャンルで活躍し、異文化の融合をテーマにしている。

シアスター・ゲイツ「アフロ民藝」、フィリップ・パレーノ「この場所、あの空」 2つの個展

彫刻、陶芸、映像、音など多様な手法を駆使した作品で評価が高い作家の個展が東京と神奈川で開かれている。東京・六本木の森美術館では黒人の美学と日本の工芸の哲学を掛け合わせた作品で知られる米国人アーティスト、シアスター・ゲイツ、神奈川県箱根町のポーラ美術館では、フランスを代表するアーティスト、フィリップ・パレーノが独自の世界観で人々を魅了している。国際的な注目度の高い2人の展覧会を紹介する。

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

「TOKOSSIPPI」。聞き慣れないこの言葉は、アフリカ系米国人アーティスト、シアスター・ゲイツ(1973年生まれ)による造語。「TOKO」は彼が陶芸を学んだ愛知県常滑市から、「SSIPPI」は彼の父のルーツであるミシシッピ州からきている。

米国の大学で都市計画や陶芸を学んだゲイツは2004年に初めて来日して以来、陶芸をはじめとする日本文化の影響を受け、現在はシカゴを拠点に活動。1950年代から1960年代にかけて盛んになった米国の公民権運動と日本の民芸運動(1926年~)に文化的抵抗という特徴を見いだし、「アフロ民藝」なる独自の美学を表現してきた。

森美術館で開催中の「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」はゲイツのアジア最大規模の個展。彫刻、陶芸作品を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザインなど、多岐にわたる活動で注目される彼の代表作から新作までが展示されている。

会場に足を踏み入れると、神聖さが漂う静的な世界が広がる。ここにはゲイツの作品の他、彼が尊敬する作り手や影響を受けてきたアーティストたちの作品を展示。床に敷き詰められた煉瓦(れんが)はかつて多くの黒人が過酷な煉瓦づくりに従事していたことを彷彿(ほうふつ)させる。ちなみに煉瓦は常滑で制作されたものだ。

ゲイツは建築プロジェクトも展開している。「ストーニー・アイランド・アーツ・バンク」は長年閉鎖されていた元銀行の建物をシカゴ市から1ドルで購入し、地域の文化施設としてリノベーションしたもの。そこでは美術展や映画の上映会の他、バラク・オバマ元大統領のファンドレイジング(資金調達)のイベントを開催したこともある。本展ではこの施設にある、米国黒人の歴史に関する書籍を集めたライブラリーを再現している。

ゲイツの率いるバンド「ザ・ブラック・モンクス」が、シカゴのサウス・サイド地区にあった聖ローレンス教会の取り壊しの際に行ったパフォーマンスの映像では、彼のソウルフルな歌唱を聴くことができる。公民権運動では政治的な役割をも担い、コミュニティーの精神的な支えとなってきた教会が、都市開発のために取り壊されていく問題に目を向けさせる。

会場には黒光りした絵画が複数展示されているが、これらは屋根にタールを塗る職人だった父親から教わった屋根補修の技術による「タール・ペインティング」シリーズ。タールに代わって屋根補修に使われるようになった素材を用い、コンセプチュアル・アートに仕立てている。

本記事冒頭の写真は、ディスコミュージックがかかり、ミラーを多用したオブジェが回転する最後の空間。ゲイツ自身が収集した常滑の陶芸家の膨大なコレクションや、大量の貧乏徳利(びんぼうどくり、明治から昭和初期まで、酒屋で少量買いをする客への貸し容器として利用されていた)などを丁寧に並べ、光を当てている。

異文化が混じり合うことの可能性を感じられる本展は多様性が叫ばれる時代の希望になるだろう。また、ゲイツのアクティブかつクリエーティブな文化的抵抗は、私たちがより良い世界を構築していくヒントとなりそうだ。