百年の埃を払うと、みずみずしい果実のような詩の言葉が蘇ってくる―高柳 聡子『埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち』沼野 充義による書評

AI要約

十九世紀末から二十世紀初頭のロシアの「銀の時代」に登場した女性詩人たちに焦点を当てた本書。本書では、十五名の女性詩人のプロフィールと作品を紹介しながら、彼女たちの活躍や表現を称賛している。

女性詩人たちの多様な表現が紹介されており、戦争や社会の問題にも果敢に取り組む彼女たちの姿が浮かび上がっている。彼女たちの作品は、百年の時を経ても鮮烈なままである。

著者の沼野充義氏も、ロシア文学に造詣が深く、幅広い著作や翻訳を手がけている。彼が女性詩人たちの魅力を温かく共感し、読者に紹介している。

百年の埃を払うと、みずみずしい果実のような詩の言葉が蘇ってくる―高柳 聡子『埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち』沼野 充義による書評

ロシアでは、十九世紀末から二十世紀初頭を特に「銀の時代」と呼ぶ。優れた文学者や芸術家が続々と現れたからだ。この時期には、女性たちも、目覚ましい活躍をするようになった。詩の世界では、若い女性たちが次々に声を上げ、新たな詩の時代の息吹を担うようになった。

本書はその「銀の時代」の女性詩人たちから十五名を選び出し、詩の一部を翻訳して紹介しながら、それぞれの詩人のプロフィールを簡潔ながらも豊かに描き出したものだ。著者は温かい共感によって女性詩人たちを照らし出し、魅力的な姿を浮かび上がらせる。

「私は最後の呼吸のときも詩人でいることだろう!」と絶叫したツヴェターエワや、戦争や粛清といった国家の大事に翻弄されて生き延びたアフマートワのような著名な詩人の他、女の体の痛みを大胆に表現したシカプスカヤ、民主化を求める社会活動に参加しながら「夜明けまえの歌」を歌ったガーリナ、初めてレズビアンであることを公言したパルノークなど。百年の埃(ほこり)を払うと、みずみずしい果実のような詩の言葉が蘇ってくる。

[書き手] 沼野 充義

1954年東京生まれ。東京大学卒、ハーバード大学スラヴ語学文学科に学ぶ。2020年7月現在、名古屋外国語大副学長。2002年、『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社)でサントリー学芸賞、2004年、『ユートピア文学論』(作品社)で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。著書に『屋根の上のバイリンガル』(白水社)、『ユートピアへの手紙』(河出書房新社)、訳書に『賜物』(河出書房新社)、『ナボコフ全短篇』(共訳、作品社)、スタニスワフ・レム『ソラリス』(国書刊行会)、シンボルスカ『終わりと始まり』(未知谷)など。

[書籍情報]『埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち』

著者:高柳 聡子 / 出版社:書肆侃侃房 / 発売日:2024年02月28日 / ISBN:4863856040

毎日新聞 2024年3月16日掲載