負けるとしても「若者と本気でぶつかれ」...ノーベル賞学者と永世名人が説く、若者から刺激を受ける「幸せ」と「意義」

AI要約

現代の日本では、平均寿命が上がり続ける中、今後100歳まで生きることが当たり前になる時代の到来を考える。

将棋の世界では年齢差があってもぶつかり合うことができる喜びや脳の老化を抑える可能性について、羽生善治と谷川浩司が語り合う。

若い世代とフランクに話せる環境は脳を若く保つ上で重要であり、研究者同士の刺激的な交流が大きな魅力となる。

負けるとしても「若者と本気でぶつかれ」...ノーベル賞学者と永世名人が説く、若者から刺激を受ける「幸せ」と「意義」

 人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか? どんな老後の過ごし方が幸せなのか? 医療はどこまで発展しているのか? 

 ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、還暦以降の人生の楽しさや儚さについてお届けする。

 『還暦から始まる』連載第12回

 『個人の健康が「社会の健康」を害してしまう⁉...「医学の進歩」に「山中伸弥」が警鐘を鳴らす納得の理由』より続く

 谷川 一般の社会では、20歳も30歳も年齢が離れてしまうと、本気でぶつかり合うことがなかなかできなくなっていると思います。けれども、将棋の世界はそれができるということを最近、特にありがたいなと思うようになってきました。

 私は藤井聡太八冠とはちょうど40歳離れています。これから藤井さんと対局する機会があるかどうかはわかりませんけれども、将棋を現役で続けている限り、30、40歳下の後輩と全力でぶつかり合うことができるというのは、とても幸せなことだと思います。それがもしかしたら脳の老化を抑える方法になるのではないかとも感じています。

 山中 羽生さんと藤井さんが戦って、藤井さんがタイトルを防衛しましたね(2023年1-3月、第72期王将戦)。

 谷川 はい。羽生さんは32歳差の52歳で王将戦の挑戦者になりました。

 山中 2勝されましたよね。

 谷川 そうですね。2勝4敗。でも本当に大接戦でした。私は羽生さんよりも8つ年上ですけれども、羽生さんが活躍していると、「自分もやれるんじゃないか」と、ちょっと勘違いをさせてもらえる(笑)。それだけでもありがたいなと思います。

 山中 そうやって若い人と、ある意味対等に争う、競争できるというのは、本当に幸せなことですよね。

 谷川 ええ。もちろん、最後には「負けました」と言って、頭を下げることが圧倒的に多くなってきています。でも実際に対局してみなければ、彼ら若い世代の考え方や感覚はわかりません。

 羽生さんは王将戦というタイトル戦を通じて、藤井さんに何か伝えたいものがあったのではないでしょうか。もちろん、真剣勝負をしているんですけれども、伝統をつないでいくというようなお気持ちもあったのではないのかなと思います。藤井さんにとっても、羽生さんとタイトル戦を戦ったことで大きな貴重な経験を得たと思います。

 山中 いま、僕の研究のメインの場所はアメリカなので、向こうに行くと、同僚として20代、30代の研究者と対等に話せます。なかには、はっきり言って「かなわないな」と思う若者もいるんです。でも彼らとお互いにファーストネームで呼び合って話をしていると、すごく刺激になります。

 いかに脳を若く保つかという意味では、若い人とフランクに話せる環境はすごく貴重ですね。時差も大変なのに、どうして僕は毎月、アメリカに行って研究しているのかなといつも思うんですけども、一番の理由は何歳になっても研究者同士がフランクに話せる、あの雰囲気が大きな魅力なんです。