三井不動産、2030年に向け社員の25%をDX人材に--採用強化、越境育成も

AI要約

三井不動産がDX方針「DX VISION 2030」を発表。AI活用のチャットツール導入や人事制度改革を推進。

10年間のDX取り組みの成果や今後の計画、DX人材育成改革、生成AI活用、サイバーセキュリティ対策について紹介。

2030年までに25%の社員をDXビジネス人材へ育成する計画を立て、年間350億円をDX投資に充てる。

三井不動産、2030年に向け社員の25%をDX人材に--採用強化、越境育成も

 三井不動産は8月5日、新たなDX方針「DX VISION 2030」を発表した。生成AIを活用したチャットツールの導入や、DX本部と事業部門間を異動する新たな人事制度などを打ち出した。

情シスからDX本部へ、三井不動産DX10年の歩み

 三井不動産は、2015年に「攻めのIT中期計画」をスタート。デジタルマーケティングやデータ活用といったITの教育展開をするとともに、IT人材の採用を強化してきた。その後、2018年に「DX VISION 2025」を策定し、事業変革、働き方改革を進めてきた。

 「当初は『情報システム部』という名称だったが、2017年に『ITイノベーション部』、2020年からは『DX本部』という形に発展してきた。10年間の成果は、2017年にデジタルを活用した新サービス『&WORK STYLING』などを相次いでリリースしたこと、各事業におけるアプリ開発やリニューアル、働き方改革システムの刷新など。かなり積極的に進め、主要システムの刷新率は10年以内で92%にのぼる。これは古いシステムはほぼ残っていないという状態で、クラウド移行率も96%、社員のIT満足度調査も86%と非常に高くなっている」(三井不動産 執行役員 DX本部長の古田貴氏)と現状を説明する。

 2009年に15名でスタートしたDX本部だが、現在の人員は140名超。エキスパートの中途人員採用も80名超と拡大している。

 DX VISION 2030では、顧客向けの「&Crew AI/デジタル人材変革」、従業員向けの「&Crew AI/デジタル人材変革」、インフラ向けの「&Platform デジタル基盤変革」の3つを推進していく計画。

 古田氏は「DXに10年取り組んできたが、まだやるべきこと、やりたいことは多い。一番感じているのは、人材の力量と質によって、できることがどんどん増えてきたこと。これを受けエキスパート人材については引き続き採用を継続していく」とした。

 さらに「不都合な真実というのもある。社内では『DX禅問答』と呼んでいるが、エキスパート人材は『何をやりたい?』と聞き、ビジネス人材は『何ができるの?』と尋ねる。これは社内でも、社外パートナーとの会話でもよくあること。この構造問題を乗り越えて、融合させることが、さらなる成長につながると感じている」(古田氏)と続けた。

 会見では、専門領域の取り組みとして「DX人材の育成改革」「生成AI活用の現在地と今後のビジョン」「サイバーセキュリティの取り組み」について、担当者が説明した。

ビジネス人材とDXエキスパート人材の能力越境で目指すDXの加速

 DX人材の育成改革では、不動産事業のプロであるビジネス人材(総合職)とDXエキスパート人材双方の能力越境によるDX加速を目指す取り組みについて説明した。「ビジネス人材は日々の仕事の中でDXを本格的に学ぶのは難しい。一方でDXエキスパート人材は、IT領域には強いが不動産事業での経験が少ない。それぞれの人材に少しだけシフトしていただいて、能力の掛け算ができるように考えている」(三井不動産 DX本部 DX⼆部 DXグループ エンジニアリングマネージャーの山根隆行氏)

 具体的には、DXエキスパート人材が事業部門に6カ月間異動し、業務に従事することで、不動産ビジネスへの理解を深める「ビジネスインターン制度」とビジネス人材がDX本部に1年間異動し、座学と実践でデジタルスキルを身につける「DXトレーニー制度」を用意する。

 山根氏は「ビジネス人材はDXを1つのスキルとして身につけ、新たな価値を創出し、DXエキスパート人材は不動産ビジネスへの理解を深め、事業成長を担うDXビジネス人材へと進化する。こうした人材を増やすことで、三井不動産という会社全体を底上げしていきたい」とした。

生成AI積極展開で、業務効率化を実現

 生成AIについては、2023年8月に社内専用GPT環境「&Chat」のリリースを皮切りに、「生成AIアイデアソン」の開催やCopilotの全社員利用など、積極的に取り入れているという。

 三井不動産 DX本部 DX⼆部 DXグループ 主事の⽥中翔太氏は「社内独自データと連携した生成AI環境を構築し、従業員の業務効率化を実現している。実際に会計処理マニュアルを学習、理解度テストを自動生成し、従来メンターが実親していた新人教育を大幅に効率化できたなどの事例がある。お客様向けのサービスにも生成AIを活用し『すまいのAIコンシェルジュ』『AI東京ドームシティ新聞』などをリリースしている」と成果を話した。

サイバーセキュリティは重要な経営課題と認識

 サイバーセキュリティを担当する、三井不動産 DX本部 DX⼀部 DXグループ エンジニアリングリーダーの⻄下宗志氏は「三井不動産グループとしてもサイバーセキュリティ対策は重要な経営課題と認識している」として、「基本的対策の徹底」「侵入がありうる前提での検知力/即応力強化」「可視化・モニタリング」「建物のセキュリティ強化」「グループセキュリティシステムの総合進化」という5つの基本方針を策定しているとのこと。

 また、攻撃者に内部ネットワークに侵入された際、感染拡大の可能性がないかを社内ホワイトハッカーが調査し、実際の攻撃者が利用するツールを使ってシミュレーションを実施。三井不動産ではこの部分を内製化しており、西下氏は「内製化のメリットは、新規の脅威が出た時に追加のカスタマイズが容易なことと、テスト範囲を柔軟に設定できること。あと、私たちはグループ会社があるので、多くのグループ会社に対して繰り返し実施可能な点が挙げられる」とした。

 三井不動産では、2030年に向け、社員の25%をDXビジネス人材へと育成していく計画で、研修費用は累計10億円程度を投じる。DX投資としては年間350億円程度を見込むとした。