「宿泊税」がオーバーツーリズムを加速させる……日本人が知らない「不都合な真実」

AI要約

オーバーツーリズム問題の経済的側面に焦点を当てた記事。観光客に税や手数料を課すことで抑止効果が期待されるが、高額料金は公平性の問題も浮上。

経済的手法を用いたオーバーツーリズム対策の有効性には限界があり、規制的手法や情報的手法も検討すべきとの議論。

外国人技能実習生を含めた登山者への入山料課税が抑止効果を持つ可能性が示唆され、安易な弾丸登山を防止する仕組みが重要である。

「宿泊税」がオーバーツーリズムを加速させる……日本人が知らない「不都合な真実」

外国人観光客が押し寄せていることで表面化している「オーバーツーリズム」問題。前回記事『イリオモテヤマネコが轢き殺され、サンゴ礁は劣化する……沖縄県が抱える深刻なオーバーツーリズムの実態』では、オーバーツーリズムがもたらす環境破壊や動物愛護の観点について論じた。次は実効的な経済的側面から考えてみたい。観光ににかかる手数料や税金は、日本は諸外国と比べて安すぎると言われている。では実際にそれらを引き上げたら、どのような課題が生じるだろうか。九州大学准教授の田中俊徳氏著『オーバーツーリズム解決論』より、引き続き内容を紹介しよう。

オーバーツーリズムは、地域住民にとっても、自然環境にとっても、観光客自身にとっても不幸な出来事である。では、どうすれば殺到する観光客をコントロールすることができるのか。オーバーツーリズムをコントロールする方法として、公共政策の観点から、大きく分けて3つの方法が存在する。それは、規制的手法、経済的手法、情報的手法である。

このうち経済的手法では、観光客に税や手数料を支払ってもらうことで、オーバーツーリズムの抑止や観光対策に用いる資金を捻出する効果が期待できる。

環境経済学では、汚染物質への課税を行うことで、汚染物質の排出そのものを減らすことができ、徴収した税を汚染対策に用いることができるため、「二重の配当」という言い方をする。これは温室効果ガスをはじめ、環境負荷を生み出す原因に対して課税することを正当化する「原因者負担原則」と呼ばれる議論である。

たとえば、富士山でも入山料として1人あたり7000円を徴収すれば、登山を断念する人が多くなり、オーバーツーリズムに有意な抑制効果を生むことが推定されている。また徴収した費用を富士山の保全活動に用いることも可能になる。一方、あまりに高額な入山料を徴収すると、お金持ちしか富士山に登ることができなくなるなど、公平性の問題が生じるという懸念がある。

実際に関連法規である自然公園法では、2000円以上の手数料を取ることが難しいため、高額な入域料の設定は現行法では現実的ではなく、経済的手法に基づくオーバーツーリズムの抑止効果(入込者を抑止する効果)には限界があると考えられる。というのも、富士山にしろ、京都にしろ、外国人観光客は、日本に来るまでに数十万円の航空券(トラベルコスト)を支払ってきているので、数千円程度の入山料は、理論的には追加費用として無視できる程度のコストに過ぎないからである。

ただし、これはあくまで「理論」であって、物見遊山的な安易な弾丸登山を抑止する効果は十分に発揮できると筆者は考えている。関所の通行手形と同じで、誰もが必ず通らなければならないチェックポイントを設け、そこで情報提供も兼ねて1000~2000円程度の手数料を支払う仕組みがあるだけでも、心理的なハードルは高くなる。

また、2023年度に急増した外国人登山者には、ベトナムやインドネシア等からの技能実習生が多いという報告もある。国内に居住する技能実習生の場合、トラベルコストや可処分所得から考慮しても、2000円の課税でも相応の抑止効果を生むと考えられる。単に所得の低い人を排除することは、国立公園の理念からして妥当ではないが、富士山が危険で神聖な場所であることを踏まえると、相応のルールを守ってもらう仕組みが必要不可欠である。