イリオモテヤマネコが轢き殺され、サンゴ礁は劣化する……沖縄県が抱える深刻なオーバーツーリズムの実態

AI要約

沖縄県恩納村にある「青の洞窟」と呼ばれるシュノーケリング・ダイビングスポットがオーバーツーリズムにより慢性的な混雑に悩まされている。

違法駐車やサンゴ礁の劣化などの問題が顕在化し、地域住民や自然環境に深刻な影響を及ぼしている。

実証実験を通じて施設管理や利用制限などの取り組みが行われているが、悪質な事業者の排除や自然保護区での適切な観光活動には課題が残されている。

イリオモテヤマネコが轢き殺され、サンゴ礁は劣化する……沖縄県が抱える深刻なオーバーツーリズムの実態

外国人観光客が押し寄せていることで表面化している「オーバーツーリズム」問題。その影響は現地住民だけでなく、自然環境にも及んでいる。中でも被害に遭っているとされるのが、美しいサンゴ礁やイリオモテヤマネコといった絶滅危惧種だという。九州大学准教授の田中俊徳氏著『オーバーツーリズム解決論』より、その凄惨な現実を紹介しよう。

沖縄県恩納村にある真栄田岬には「青の洞窟」と呼ばれるシュノーケリング・ダイビングスポットが存在する。2000年代初頭には、「知る人ぞ知る」場所だったが、「青の洞窟」とネーミングされ、観光ツアーとして販売されるや否や、爆発的な人気となり、現在では、慢性的な混雑の様相を呈している。

真栄田岬には、海から船でアプローチするコースと、岬の公営駐車場から階段を下りて海に入るコースがある。駐車場は180台収容できるが、繁忙期にはすぐに満車となり、1時間程度の駐車待ちが発生することも多い。無店舗型のシュノーケリングショップ等が駐車場にワゴンを置きっぱなしにして営業しているケースがあるためである。

この恒常的な混雑により、近隣集落内で違法駐車が相次ぎ、地域住民から状況の改善を求める声が出ている。真栄田岬には、一日最大で7000人が訪れることもあるため、サンゴの踏みつけ等の生態系への影響も問題視されている(「琉球新報」2021年10月22日)。

また、コロナ前はインバウンド観光客の増加に伴い、中国人を対象とした法人登録をしていないと思われる事業者も多く見られ、苦情を言おうにも言葉が通じなかったり、マナー違反が目に余るといった状況が存在した。成田空港の白タク問題も然り、中国人観光客にとっては、中国語で案内される方が便利で快適なことは間違いないが、日本の関連法規に従っていないと思われるケースが散見され、喫緊の対策が必要である。

真栄田岬では、違法駐車やサンゴ礁の劣化といった問題を受けて、2021年に初の「実証実験」が行われた。これは内閣府沖縄総合事務局が主導したもので、2021年11月8日ら12月6日の約1カ月間、海域に入場するマリンレジャー事業者や一般利用者は、施設管理会社に届出を提出する、というものである。

実証実験では、真栄田岬公園駐車場や海域の混雑状況を改善するため、利用時間を1人(1隻)あたり100分とし、同一時間帯の海域利用者数を200人に制限した。また、損傷しやすい種類のサンゴ礁が生息する一部区域を「進入禁止区域」に設定し、隣接地域との比較分析も行うことを目的とした。

2022年3月には、約200頁に及ぶ報告書が公開されているが、その内容は、極めて示唆に富むものである。たとえば、実証実験では、海域の利用届の提出を求めたが、利用登録に協力しなかった事業者(ショップ)が半数以上あり、「税務署へ報告するのか」といった発言や、実証実験を行う職員を恫喝する事案も発生するなど、事業者のモラルが低いことが指摘されている。その他、領収書を発行しない、案内人数の虚偽報告、迷惑行為を行う、占有行為を行う、サンゴ保全に対する意識の低さ、安全管理がなされていない等、オーバーツーリズム以前の問題とも思われる事業者が多数存在することが指摘されている。こうした悪質な事業者を排除できないのが、沖縄の現状である。

実は真栄田岬周辺は、「沖縄海岸国定公園」という自然保護区に指定されており、特に環境保全や質の高い観光利用が求められる地域である。国際的にみると、実証実験で策定された内容(利用届の提出、時間あたり利用人数や進入禁止区域の設定等)は、自然保護区では、極めて一般的な措置であるが、これすら実装することが難しい状況にある。

ハワイであれば、すぐに対策が採られるだろうが、日本では拘束力に乏しい実証実験や自主ルール、自粛要請を繰り返すことでお茶を濁すきらいがある。その間に、地域住民が迷惑し、自然が壊され、事故が起こり、観光客が遠ざかっていく……という負のスパイラルが繰り返される。これでは観光立国どころではない。