「現役時代に地位の高かった人」ほど苦しむことも…「定年後」に「自由を満喫できる人」と「できない人」の違い

AI要約

長寿国となった日本で、人生100年を幸せに生きることの難しさと、高齢者におけるうつ状態の増加について述べられています。

定年退職後の生活について久坂部羊さんや著者の体験を通じて考察され、好きなことの重要性が指摘されています。

高齢者がうつになりやすい理由とその症状について、連載記事で詳しく解説されています。

「現役時代に地位の高かった人」ほど苦しむことも…「定年後」に「自由を満喫できる人」と「できない人」の違い

日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。

長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。

そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。

実にもったいないことだと思います。

では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。

医師・作家の久坂部羊さんが人生における「悩み」について解説します。

*本記事は、久坂部羊『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。

会社でも役所でも学校でも、働いている中高年には「定年」という人生の区切りが近づいてきます。これを何の感慨もなく通過する人は少ないでしょう。

長年働いてきた職場に別れを告げる。引き続き同じ場所で働くにしても、立場や収入が大きく変わる。満足感や自分をほめたい気持ちを抱く人、淋しさや悲哀を感じる人、逆に解放感を抱く人も多いのではないでしょうか。

定年はだいたい六十歳から六十五歳ですが、今の六十代はまだまだ元気で、引き続き仕事をする人が大半でしょう。そのとき、希望に適う職場を見つけられるかどうかが、精神の健康に大きく関わってきます。どんな仕事に就いても不満を抱く人は、精神の健康を損ないがちですし、仕事があるだけましと思える人は健康的に暮らせます。

私の同級生たちも、すでに定年をすぎていますが、ほとんどが第二の職に就いています。現役時代に地位の高かった者(教授や院長や学部長など)ほど、次の職場にギャップを感じ、苦しむようです。

書評やエッセイで活躍する同級生の畏友、仲野徹(元大阪大学医学部教授)は、定年と同時に完全リタイアして、「隠居」を宣言しています。退職後は本を読みながら、自宅の裏庭に畑を作って文字通りの「晴耕雨読」に励みつつ、執筆や講演、さらにはふつうの人があまり行かない場所への海外旅行(イランやマダガスカルやパタゴニアなど)で忙しくしています。まさに第二の人生を謳歌しているというところでしょうか。

私自身は、若いころから勤務先を次々と替え(数えたら十一ヵ所ありました)、非常勤も多かったので、定年で職場を去った経験はありません。昨年、大学での仕事をやめ、現在は週一回の健診センターでの非常勤勤務ですが、これもそろそろやめようと思っています。

私の父は、私とは逆に一ヵ所の病院で四十年以上勤務し、六十五歳で定年退職したときには、大きな解放感に浸っていました。父は麻酔科医でしたが、仕事に対する熱意は薄く、自分の時間を楽しむことが好きな人でしたから、定年の三年ほど前から、「定年まであと千日を切った」とか、「解放まであと五百日」などと、まるで囚人が刑期の明けるのを待つように指折り数えていました。そして、定年退職したあとは、「今日で百連休」などと言って、私をうらやましがらせたものです。

そんな父でしたから、当然、退職後は完全リタイアで、のんびり昼寝をして、散歩と喫茶店通いを楽しみ、絵を描いたり、文章を書いたり、歴史好きだったので遺跡が発掘されたら説明会に参加したりと、父の大好きな「自由な時間」を楽しんでいました。収入は年金のみでしたが、贅沢には興味がなかったので余裕があり、母と二人、年に何度かは海外旅行にも行っていました。

父の同僚には、第二の職場で麻酔をかけ、「年収一千万円や」などと自慢している人もいましたが、父は「それだけもらえるということは、それだけ働かされるということや」と、むしろ同情していました。

仲野徹にしても父にしても、定年退職後に活き活きと暮らせるのは、好きなことがあったからでしょう。逆にすることがないと、せっかくの自由も宝の持ち腐れになります。

退職してから好きなことを見つけようとしても、なかなか見つかるものではありません。若いころから仕事に打ち込んできた人は、ほかに好きなことがないからそうしてきたともいえます。好きなことと仕事、どちらも本気で取り組むのはむずかしいでしょう。中高年になってからの精神的健康を保つためには、あまり熱心に仕事に打ち込むのは考えものかもしれません。

さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。