対米交渉、〝切った張った〟の怒鳴り合いも 「ジャパン・バッシング」で日本車破壊の時代 国際舞台駆けた外交官 大江博氏(11)

AI要約

大使としての外交官生活を振り返る元駐イタリア大使のインサイト。

日本の交渉手法に疑問を持ちながらも、米国との摩擦を解決するために奮闘。

交渉での独特なやり取りや「大筋合意」の実態について明かされる。

対米交渉、〝切った張った〟の怒鳴り合いも 「ジャパン・バッシング」で日本車破壊の時代 国際舞台駆けた外交官 大江博氏(11)

公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。その舞台裏が語られる機会は少ない。ピアニスト、ワイン愛好家として知られ、各国に外交官として赴任した大江博・元駐イタリア大使に異色の外交官人生を振り返ってもらった。

■「期限5分前に時計の針を止めて」

《1994年末から3年間、在米日本大使館で参事官を務めた》

日米通商摩擦が激しかったころです。半導体、自動車、タバコ、港湾、保険と、摩擦の種は尽きない。私は多くの交渉に参加しましたが、日本側の交渉の仕方に正直、大きな疑問を持っていました。

多くの場合、日本は交渉期限ギリギリまで、ほとんど譲歩をしない。「期限5分前に時計の針を止めて」との役人の独特の表現通り、交渉期限直前になって急にドドッ、と譲歩しました。国内の業界に対し、「ギリギリまで頑張ったものの、米国に押し切られた」という釈明のためかもしれません。しかし、交渉技術として効果的とはいえません。米側も「日本とはいつも期限ギリギリまで意味のない交渉が行われる。本当に時間の無駄」とうんざりした表情で語っていました。大使館から参加する私は交渉中、黙って聞いていることが多いのですが、米側責任者から交渉後、しばしば呼ばれ、「日本が最終的に譲れないのはどこか、教えてくれ」と言われたものです。「次の交渉で米側から出す米側案を作ってほしい」と言われたことすらあります。

■〝大筋合意〟の本当の意味

《橋本龍太郎通産大臣(現経済産業大臣)とミッキー・カンター米通商代表部(USTR)代表との間で95年、自動車を巡る交渉が「大筋合意」に達したと発表された》

日本で「大筋合意」とは通常、交渉がまとまったという意味で使われます。その後、合意文書を最終的に確定する必要があるのですが、「大筋合意」に達したと言った手前、目立った形で米国とは交渉しにくい。「後は大使館でやってくれ」と言われ、米国と文言を巡り地道な交渉を余儀なくされました。

■4人目の交渉人