声かけの台本、一時金のご褒美…現場押し付けの『マイナ保険証』利用促進に「いい加減にしてほしい」

AI要約

政府がマイナ保険証の利用率を上げるためにキャンペーンを展開しているが、医療機関や薬局では積極的な声かけが難しいとの声がある。

マイナ保険証の利用率は増加しているものの、進捗は鈍く、支援金の増額は賛否がわかれる状況だ。

医療機関の診療報酬が増額される一方、患者の負担も増加し、健康保険料の収支に影響を与える可能性もある。

声かけの台本、一時金のご褒美…現場押し付けの『マイナ保険証』利用促進に「いい加減にしてほしい」

今年12月の健康保険証廃止を前に、政府がマイナ保険証の利用率を上げようと躍起になっている。

厚生労働省は5月から7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」とし、利用拡大目的のキャンペーンを展開。昨年10月のマイナ保険証の利用実績などをもとに、集中取組月間中の利用人数増加に応じてクリニックや薬局に最大10万円、病院に20万円を一時支援金として支給すると発表したのは4月のことだ。

ただし医療機関や薬局に対し、一時金の条件としてマイナ保険証の利用を促す窓口での声かけ、厚労省が作成したチラシの配布とポスターの掲示を求めている。しかも厚労省は、「マイナ保険証促進トークスクリプト」なる声かけのための台本まで作って公開しているのである。

「受付にカードリーダーを設置しても、マイナ保険証で受診する患者さんは数えるほどしかいません。ポスターを貼ってチラシも置いてはいますが、一時金を得るために積極的に声かけしてまで利用促進を図ろうという気持ちにはならないですね。

今回の集中取組月間で、マイナ保険証の利用率を伸ばしているところは薬局が多いようです。事務スタッフの多い病院や調剤薬局チェーンであれば、声かけに労力を費やすことも可能なのかもしれません」

そう話すのは、埼玉県の歯科クリニック院長、中田智之さんだ。

集中取組月間が始まった5月はマイナ保険証の利用率が7.73%と、4月(6.56%)から1.17ポイント伸びただけとはいえ一応は上昇した。厚労省のデータによると、増加分のうち約7割は薬局での利用勧奨によるもの。薬局が全体の数字を押し上げたことになる。

厚労省は先月21日、利用者を一定以上増やした医療機関などに支給する一時金の上限を、クリニックと薬局は10万円から20万円に、病院は20万円から40万円に倍増すると発表した。5月の時点で一時金の上限に達している医療機関や薬局が相当数あり、高利用施設に対して「さらに利用率を押し上げるためのインセンティブが必要」というのが理由らしい。

だがどう説明しようと、支援金の増額は、キャンペーンを始めても7.73%と伸び悩む利用率の引き上げを狙った「バラマキ」に他ならない。

「集中取組月間の一時金は、社会保険診療報酬支払基金から支払われます。

支払基金は、医療機関と健康保険組合の間に立って診療報酬の審査と支払いを行う機関で、医療機関が行った診療行為の対価として診療報酬を支払うことが主な役割です。支払基金が健康保険組合から預かった保険料を、マイナ保険証促進のための一時金に使うのは目的外利用で、ちょっと筋が違うような気がします」

◆看護師らの賃金を上げた医療機関で受診すると初再診料の支払額が増加!?

その診療報酬だが、6月からの改定で初診や再診時にかかる料金が引き上げられ、初診料が30円増の2910円、再診料は20円増えて750円になった。入院基本料も、病棟の種類に応じて1日当たり50~1040円上がった。

医療従事者の賃上げ原資にあてるのが目的で、人手不足を緩和するための人材確保も狙いの一つ。病床のない診療所が看護師らのベースアップを行う場合は、初診料に最大700円、再診料には最大100円が上乗せされる。3割負担の患者は、窓口での支払額が初診で9~219円、再診でも6~36円増える計算だ。

「上がった分の3割を患者さんが負担し、残りの7割は健康保険から支払われるわけです。健康保険料の収支バランスが崩れると、じゃあ保険料を上げるんですか、消費税を値上げするんですかという話にもなってくると思います」