《年金財政検証の衝撃》経済成長横ばいなら対現役世代比で約2割減へ 年金を増やすには「繰り下げる、働く、運用する」という3つの選択肢が

AI要約

厚生労働省が公的年金の将来について財政検証結果を公表。将来の給付水準は不透明で、受給者が工夫を必要とする時代に。

2039年度の所得代替率の予測や繰り下げ受給の仕組み、在職定時改定による年金増額など、将来の年金受給額を増やす方法が紹介されている。

受給者側が自らの収入を増やす工夫を考える必要がある時代に、年金制度の変革が求められている。

《年金財政検証の衝撃》経済成長横ばいなら対現役世代比で約2割減へ 年金を増やすには「繰り下げる、働く、運用する」という3つの選択肢が

 7月3日、厚生労働省は公的年金の将来について5年に一度、試算を行なう「財政検証」の結果を公表した。将来の人口推計や経済状況によって、年金制度の持続可能性を検証するものだが、少子高齢化に歯止めがかからないなか、年金給付水準の見通しは明るくない。受給者一人ひとりが「年金をどう増やすか」の工夫を考えることが必要な時代となっている。

 厚労省の公表資料によれば、2024年度の夫婦2人世帯のモデル年金(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)は月額22.6万円。現役世代の男性の平均手取り収入(月額37万円)に対する割合である「所得代替率」は61.2%となっている。財政検証では、この所得代替率が将来にわたってどのように推移するかがシミュレーションされている。

 2034年度以降の30年間平均の実質経済成長率が1.6%となる「高成長実現ケース」では、2039年度時点の所得代替率は56.9%になるとされている。一方、過去30年の経済状況を投影した現状からの横ばいの推移を想定した場合、所得代替率は50.4%(2057年度)まで落ち込むとされている。現在の所得代替率から約2割減となる水準だ。ベテラン社労士が言う。

「政府はこの結果でも“現役世代の収入の半分にあたる年金収入が維持される”と喧伝しますが、そもそも『所得代替率』の定義にトリックがあり、年金収入は税金や社会保険料が引かれる前の『額面』の数字で、現役世代の収入は天引き後の『手取り』の数字を使っている。分母(現役世代の収入)が小さく、分子(年金収入)が大きくなるようにした数字であり、手取りで比べれば現役世代の収入の半分を割り込むということになります」

 年金が大きく目減りしていく時代に向けて、受給者側が取れる対策は何か。まず挙げられるのが、年金の「繰り下げ受給」だ。年金の受給開始を65歳よりも遅らせることで、支給額が上乗せされるという仕組みである。

 繰り下げた場合、受給開始は66歳から75歳までの範囲で選択することができ、1か月繰り下げるごとに0.7%の増額となる。最大限10年繰り下げて75歳受給開始を選ぶと、年金額は84%を増えることになる。モデル年金をもとに元会社員1人の年金が月額15.9万円とすると、それが月額29.2万円まで増えるわけだ。

 自分で運用するケースと違って確実に将来の年金額を大きく増やせる繰り下げ受給は魅力だが、その間、公的年金に頼らずに生活費を賄う必要が出てくるという困難が伴う。その点でより現実的なのは、「働きながら年金を受け取り、受給額を増やしていく」という第2の選択肢だ。

 2022年の年金改正で「在職定時改定」と呼ばれる仕組みが導入され、65歳以降も厚生年金に加入して働き続ける場合、1年ごとに年金額が増えていくかたちとなった。日本年金機構のホームページでは、65歳以降に給与月額20万円で厚生年金に加入して働き続けた場合、毎年、年金額が約1.3万円(年額)ずつ増えていくと紹介されている。70歳まで働き続ければ年金額は約6.5万円増える計算になる。