伊藤詩織さん「社会の中にあるブラックボックスに司法で問いかけた」 6年半の四つの裁判の報告会 

AI要約

ジャーナリストの伊藤詩織さんが6年半にわたる裁判の記録を振り返り、裁判の結果や影響について語った。

伊藤さんは性被害を受けたことを告発し、裁判を起こすことで社会的な意識を広めるための行動を取った。

伊藤さんは勝訴した裁判もあるが、司法の課題や支援が必要なことも指摘している。

伊藤詩織さん「社会の中にあるブラックボックスに司法で問いかけた」 6年半の四つの裁判の報告会 

「本当に長かったな……」

 ジャーナリストの伊藤詩織さん(35)は9日夜、都内で開いた報告会で、約6年半にわたる自身の裁判の記録を聞いた後、かみしめるようにこう語った。

 2015年4月、伊藤さんは、就職相談のため当時TBSのワシントン支局長だった山口敬之氏と東京都内で食事をした。その際、酒に酔って意識を失い、望まない性行為を強要されたとして、17年9月に民事訴訟を提起した。山口氏は「(伊藤氏が)誘ってきた」と反論したが22年7月、最高裁は山口氏の上告を退けた。山口氏が同意なく性行為に及んだとして、約332万円の賠償を命じた高裁判決が確定した。

 山口氏への裁判に加え、伊藤さんは20年、SNSでの自身への誹謗中傷に対して賛同を意味する「いいね」ボタンを押した自民党の杉田水脈氏らに対し、損害賠償を求める訴えを起こした。今年2月、杉田氏に対する裁判で最高裁決定により控訴審判決が確定したことで、すべての裁判が終了した。この日は、合わせて4件の民事裁判に関する報告会となった。

 被害にあったとき伊藤さんは25歳だった。ジャーナリストを目指していた伊藤さんはやりたいことがたくさんあったが、事件がすべてを壊した。

 それでも裁判を起こしたのは、「助けて」と言いやすい社会を広げていきたかったからだ。

 伊藤さんはこう言った。

「私個人ではなく、社会の中にあるブラックボックスに対して、司法で問いかけてみようという一連の行動ができたことはほんとに夢のように思っています」

 そしてそこには、いつも支えてくれる弁護士や仲間たちがいた。

「裁判がある時に一緒に裁判所に行ってくれたり、お手紙をいただいたり、みなさま一人一人のサポート、そして応援してくださる方々がいなかったらできなかったです」(伊藤さん)

 性被害を実名で告発した伊藤さんの勇気ある行動は、性被害を受けても泣き寝入りしないという「#MeToo」運動のうねりを、日本社会にも巻き起こした。

 この日、登壇した伊藤さんの代理人を務めた西廣陽子弁護士は、こう言った。

「うねりの根底には、性被害に遭われた方々の嘆きがあったと思います。嘆きというのは、諦めきれないからこそ出てきたものです。その嘆きが怒りに変わり、日本における#MeTooに変わっていったと、いま感じています」

 一方、伊藤さんは四つの民事裁判で勝訴したが、そのうち2件は損害賠償が支払われていないという。伊藤さんはこう言った。

「こうした司法の穴があって、私たちが生きている社会の中で、ジャスティスを勝ち取るのは本当に大きな問題だと思います」

 裁判には多額の費用がかかる。性被害に遭った時、1人に背負わせないためにはどうすればいいか考えることも必要だと訴えた。

 いまジャーナリストとして活動している伊藤さんは、自身の性被害の調査に乗り出していく姿を自ら記録したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」を制作。映画は、1月に米国で開かれたインディペンデント(独立)映画の祭典「サンダンス映画祭」の国際長編ドキュメンタリーコンペティション部門に出品された。同映画祭は、インディペンデント系の映画祭では世界で最も権威があり、同部門での出品は日本の監督作品で史上2作目だ。個人として性暴力サバイバー側の視点も入れたという映画について、伊藤さんはこう思いを語った。

「私が経験した裁判、そして事件のその後をドキュメンタリーとして形にしたので、みなさまに届けたいというのが今の一番の願いです」

(編集部・野村昌二)

※AERAオンライン限定記事