人間の出生を否定する“反出生主義”とは 「幸せがあっても崩れる。なら最初から存在しないほうがいい」 哲学者に聞くその思想、“誕生肯定”の提唱も

AI要約

出生率が過去最低の1.20を記録するなど、少子化が深刻化する中、注目を集めているのが「反出生主義」。新しい命を産み落とすべきではないという考え方が広がりつつある。

30代の福原さんや田中さんは、自身の経験や社会の現状から生まれることの苦しみや意味を問う。幸せと不幸のバランスを考える中で、子どもを産むことの是非について深い思索がなされている。

反出生主義の背景や考えかた、今後の展望など、さまざまな視点から考えられている。

人間の出生を否定する“反出生主義”とは 「幸せがあっても崩れる。なら最初から存在しないほうがいい」 哲学者に聞くその思想、“誕生肯定”の提唱も

 出生率が過去最低の1.20を記録するなど、少子化が深刻化する中、注目を集めているのが「反出生主義」。つらいことや苦しいことが多いこの世の中に、新しい命を産み落とすべきではない――つまり「全ての人間は、子どもを産むべきではない」という思想だ。ただ、あくまで「人間が生まれること」への問題視であり、今を生きる人々に自死を促すものではない。

 ネット上では、「“子どもを不幸にしたくないから生みたくない”はめちゃくちゃ共感できる」「人生には嬉しいことよりも圧倒的に辛いことが多すぎる」などの声があがる。なぜ反出生主義に共感するのか。生まれることが不幸ならば、生きる意味とは何なのか。『ABEMA Prime』で当事者とともに考えた。

 30代の福原さんは、幼少期から「生まれなければ良かった」と感じていた。「幸せなことがあっても、災害や戦争、病気、事故でガラガラと崩れることは珍しくない。だったら最初から存在しないほうがいい」。

 細かいことが気になる上、かんしゃく持ちの性格だったため、家庭や学校にもなじめず、常に孤独を感じていたという。「『お誕生日おめでとう』と言われると、『誕生したからつらいんだよ』と複雑な気持ちになる。『なぜ私だけうまくいかないのか。生まれてこなければ、全ての苦しみはなかった』と思っていた」。

 30代の田中さんは、「人類は子どもを産むべきではない。ゆるやかに絶滅したほうがいい」「この世は争いや差別だらけで、格差も大きい。子どもを産むのはギャンブル」と考えている。21歳までは子どもを産むイメージがあったが、徐々に考えが変化していった。要因は「看護師として精神科病棟で働いた経験」「風俗業界で様々な格差を見る」「発達障害で生きづらかった」こと。

 特に「学生時代の病院実習」が大きかったという。「看護師免許を取るための実習で、生まれてくる命、消えていく命に出会ったことが、命について真剣に考えるきっかけだった」。10代までは「社会でよしとされる価値観を疑わず、そのまま自分の中に落とし込んでいた」といい、「社会の深い部分を見なければ、『子どもを産むのはいいこと』との考えを疑うことはなかった。子どもを産み、今頃は子育てをしていたかもしれない」と語る。

 また、「99人の幸せな人がいても1人が不幸なら、100人生まれないほうがいい」との考えも持っている。これにパックンは、「幸せは足し算で、相対的にプラス・マイナスになると思うが、かけ算に感じているのか。99人分の幸福より、1人の不幸が優先されるべきということか」と問いかける。


 田中さんは「かけ算とは少し違うが、幸福と不幸は足し算できるものではない」と説明。「私の経験上、不幸で苦しんでいる人から『少数の人が苦しむのはやむを得ない』という発言を聞いたことがない。犠牲になっている人がたとえ1人だけだったとしても、その苦しみを軽んじることは倫理に反する」と答える。

 今後、考えが変化する可能性については、「私が幸せだろうと不幸だろうと、戦争や差別、貧困はなくならない。自分自身の幸福度と反出生主義はあまり関係しておらず、考えが揺らぐことは今後もないだろう」と否定した。