介護職のジレンマ 「車いすへの移乗、食事……。自分でできるのに時間の都合で介助してしまう」利用者本位のケアどう実現?

AI要約

看護師とは異なる視点から、介護福祉士が直面する倫理的課題に焦点を当てた記事。

介護福祉士が日常的に抱える倫理綱領と実践の齟齬について、具体例を挙げながら探求。

高齢者の自立支援と利用者本位のケアの重要性が強調されている。

  医療現場に立つ看護師たちは、日々、難しい場面に遭遇します。迷い、悩む看護師たちの姿から学べることは何か。聖路加国際大学教授の鶴若麻理さんが、医療の現実と生命倫理について、読者とともに考えていきます。

 いつも看護職や看護ケアについての話が多いですが、最近、介護福祉士にインタビューしたことをふまえて、高齢者ケアに従事する介護職が直面する倫理的課題について考えてみたいと思います。

 私は最近、看護職だけではなく、介護職の倫理研修の講師として呼ばれることもあります。研修の企画者からは「日々の高齢者との関わりの中で、介護職のケアのあり方を振り返る機会としたい」と言われます。実際に研修に参加する介護職からは「毎日、介護しながら、これでよかったのかと考えることがあるが、人員不足と多重業務で考えることもできず、仕事の効率化を優先してしまう」という意見がよく聞かれます。

 介護職のすべてが介護福祉士の国家資格を有しているわけではありませんが、「日本介護福祉士会倫理綱領」(公益社団法人日本介護福祉士会、日本介護福祉士会倫理委員会、1995年)には、柱として次の七つ、①利用者本位、自立支援、②専門的サービスの提供、③プライバシーの保護、④総合的サービスの提供と積極的な連携、協力、⑤利用者ニーズの代弁、⑥地域福祉の推進、⑦後継者の育成――が挙げられ、各項目に行動規範が示されています。介護福祉士として、自らの専門的知識・技術及び倫理的自覚をもって最善の介護福祉サービスの提供に努めることが、この倫理綱領に宣言されています。

 介護福祉士が、高齢者へのケアの中で違和感をおぼえたり、高齢者にとってこれでよかったのかと思ったりした場面をインタビューしたところ、よく語られたのは、次のようなことでした。

 「高齢者の車いす移乗時など、本人のペースでなら自分でできるのに、こちらの時間の都合で手伝ってしまう」や「多少時間を要するが、自分で食べられる人に対して、こちらの時間の都合を優先して、つい介助してしまう」があります。これは、倫理綱領の①に関連して、本来は高齢者の自立支援を大切にしなければならないのに、業務を優先してしまい、利用者本位とはなっていないというものです。

 「本当はトイレに今は行きたくないと言われたが、トイレの時間だからと連れて行ってしまう」。これも倫理綱領の①に関連して、利用者のニーズに合わせたケアではなく、支援者側のルールに沿った支援となり、利用者本位には結びついていない状態です。