現存唯一の鉄道車両で「髪切って、ひげ剃ってきた!」長野の山中に残る“動く床屋さん”とは

AI要約

東京都清瀬市にある理髪店「BBつばめ」さんは鉄道グッズが展示されている名物店。店主の渡辺和博さんは鉄道ファンで、長野県にある山中には理髪専用の鉄道車両「理髪車」が保存されている。

理髪車では不定期に整備協力金を支払えば、渡辺さん自らが理髪体験を提供している。その車両はかつて林業作業員用に作られ、木曽森林鉄道を巡回して作業員の髪を切っていた。

理髪車は1955年から1975年まで20年間活動し、延べ2万人もの髪を切った。作業員たちにとっては、山から降りて家族に会える日を楽しみにしていたそうだ。

現存唯一の鉄道車両で「髪切って、ひげ剃ってきた!」長野の山中に残る“動く床屋さん”とは

 東京都清瀬市にある理髪店「BBつばめ」さん。ここは、知る人ぞ知る鉄道グッズが数多く展示された「名物店」でもあります。

 今年(2024年)5月、同店を訪れた際に、店主で鉄道ファンの渡辺和博さんから、色々と興味深いハナシを聞きしました。その中で、筆者(吉川和篤:軍事ライター/イラストレーター)がおもしろいなと感じたのが、長野県の山中に散髪専用の鉄道車両「理髪車」が保存されているというもの。しかも、その車両では不定期ながら実際に整備協力金(3000円:2024年7月時点)を支払えば理髪体験もできるというではありませんか。

 そんな激レア体験ができる鉄道車両があるとは思いもしなかったので、店主に詳しく話を聞くと、なんと車内で理容師として腕を振るうのは、話をしてくれた渡辺さん本人だそう。そこで早速、現地の上松町観光協会に問い合わせと予約を行い、再び髪が伸びそうな7月の体験開催日に信州木曽の現地へと向かいました。

 理髪車があるのは、長野県木曽郡上松町にある赤沢自然休養林の中です。同車は、かつて林業が盛んであった木曽で、ヒノキの伐採作業や材木の運搬などに従事した作業員に向けて作られた理髪専用車でした。世にも珍しいこの車両は、台車以外は木製の客車を改造したもので、誕生の理由は伐採作業で何週間も泊まることが続くことや、理髪店のある町まで最低でも2時間かかってしまう地理的な問題から製造されたといいます。

 実際の運用は走りながら理髪するのではなく、最総延長距離が500kmにもおよんだ木曽森林鉄道を定期的に巡回して、駅や作業場付近に停車して行ったそうです。また理髪も営林署の職員が行っており、担当者は「理髪手」と呼ばれていました。

 活動は1955(昭和30)年から1975(昭和50)年までの20年にわたり、延べ2万人もの髪を切ったとのこと。作業員たちがこの理髪車に乗るときは、山を降りて家族に会える日が近いというのを明示していて、心楽しい日でもあったそうです。