「老後30年の不足金2000万→3500万へ上方修正」が必要に…年金財政検証で発覚した年金年額49万円減の緊急事態

AI要約

厚労省が公表した年金財政検証の結果に疑問が投げかけられている。少子化や給与の実質賃金の下落などの要因が考慮されず、楽観的な数字が提示されている。

将来の年金負担増に対して、公平な分担方法が求められている。特に寿命延長に伴う年金給付額の膨張に対処するための対策が必要とされている。

年金制度の抜本改革の必要性が指摘されており、厚労省の試算条件設定に対する不信感が高まっている。長期的な財政健全性について議論が深められている。

男女平均の寿命は2070年までに4.2歳延びると見込まれている。すると、それに比例して年金給付額が自動的に膨張する。その負担増をどう公平に分担すればいいのか。昭和女子大学の特命教授・八代尚宏さんは「最新の年金財政検証で、厚労省は、年金制度は現状のままでも大丈夫と発表したが、試算の条件設定が不自然で信用ができるものではない」という――。

■年金財政検証で発覚した緊急事態案件

 私たち国民が老後生活を送るために不可欠な公的年金。国は、私たちが汗水流して得た給料から天引きしたお金などを管理・運用している。7月上旬、その年金の収支の健全性をチェックした結果が公表された。厚生労働省は「5年前の検証時と比べて健全化した」と胸を張り、大手メディアもその方向性で報じているが、どれだけの人がこの内容を信用しているだろうか。

 前回検証と今回との間に、出生数は大幅に減少し、少子化はさらに深刻化した。春闘で名目賃金は高まったが、それはインフレの後追いで、実質賃金は2年以上もマイナスを続けている。それでも大幅な円安・株高で年金基金の運用利回りは好調のようだが、それが今後50年以上も本当に維持できるのか。

 政府の年金財政についての見通しは「楽観的」な内容と毎回決まっている。本来、年金制度の抜本改革が必要との声が多いにもかかわらず、しなくても済ませるためにそうしている。

 2070年までに男女平均の平均寿命は4.2歳延びると見込まれ、それに比例して年金給付額が自動的に膨張する。この負担増をどう公平に分担できるかが、年金財政検証の本来の目的だ。「年金制度は現状のままでも大丈夫」というのは、政府の大本営発表そのものであり、まったくもって信用ならん。筆者にはそう思わざるをえない。

■不自然なケース設定

 年金財政についての超長期の試算には不確実性が大きい。このため出生率などの人口変数は「中位」推計を基本に、「高位」と「低位」の推計で幅をもって示す手法が用いられる。

 今回、この前提でまず首を傾げたのが中位推計での出生率「2023年1.20」が、2024年からなぜか急上昇し長期的には1.36となり、この水準で安定すると見ていることだ。

 なぜ、少子化が予想以上に進んでいるのに、能天気な数字なのか。もしかして岸田文雄首相の異次元の少子化対策が、万一にも効果を発揮するのだろうか。

 振り返れば、過去に発表した出生率の見通しも、公表直後にすぐに回復というシナリオがほとんどだったが、現実はそうならなかった。裏切られ続けてきた。(参考:「出生率は2023年で底を打って回復へ…楽観見通しの理由を一切説明しない厚労省に働く政治的バイアス」)

 年金財政の検証時の試算には「平均寿命」も大きな要素となるが、今回は前回推計時と比べて、男女平均で0.7歳延びるとした。長生きはいいことだが、一方で放置すれば年金財政を圧迫する。

 また、試算上の「外国人の流入数(仮定)」は16万4000人で、これは前回の2.3倍増。その結果、出生数が減少するにもかかわらず、人口減少の速度が緩和する。将来の人口に占める外国人比率が10%に高まるという、外国人頼みの財政検証だ。

 試算上のさらなる大きな問題は、経済成長率などの「経済変数」だ。今回も、なぜか4ケースを示しており、2009年以前のような「中位」推計がない。武見敬三厚労相は記者会見で3番目の「過去30年と同じ状況が続く」ケースを用いて説明した。

 まあ、これが標準ケースということなのだろうが、それでさえ、今後の少子高齢化で負担が確実に増える中、一人当たりGDPがこれまでと同様に毎年0.7%も高まるという楽観的なものだ。さらに呆れてしまうのは、GDPがその上の1.8%から2.3%に高まる「非現実的なケース」を、世論を誘導するためか、わざわざ2つも示したことだ。あまりに恣意的に過ぎる。

 昨今、高齢者や女性の就業率は高まったが、今後の本格的な労働市場の改革もないのに、女性の就業率が男性並みに高まるなどの前提で、さらに2%前後もポイントアップする。その根拠を明示してほしいものである。

 今回、「年金財政が健全化した」という最大の根拠が年金積立金の運用実績で、2023年の積立金が前回よりも70兆円も増えたことが強調された。

 もちろん減るより増えたほうがいい。だが、この増加要因は、主に大幅な株高の恩恵である。今後、下げトレンドになる可能性もあり、株式投資に大きく依存した年金基金の資産選択リスクに懸念を持つ国民も少なくないと推測される。

 この年金積立金だが「標準」ケースでも2070年まで増え続け、その後、減少に転じるが、ほぼ100年後の2120年でも、「一年間の給付などに等しい水準が維持される」という。これが「100年安心年金」は堅持というシナリオだが、それで大丈夫なのか。

 実際、試算の別のケース(もっとも悲観的な「ゼロ成長」ケース)では積立金が2040年頃から減少に向かい、2060年頃で国民年金の積立金が枯渇すると厚労省は見積もっている。そんな一大事にもかかわらず、その後の予測値を勝手に打ち切ってしまっている。今後の日本に何が起こるかわからないのだから当然、このリスクへの対応がもっとも必要であるのは言うまでもない。