高度経済成長直後のバブル期、新規事業にガンガン投資も尻すぼみした多くの日本企業…「カゴメ」が“トマトの会社”から“野菜の会社”への変化を決めた理由

AI要約

カゴメ株式会社の新規事業開発の失敗を振り返りながら、CFT分析を用いた分析方法を紹介。

カゴメがトマトに特化した事業展開に成功した一方、他の事業では顧客に提供する機能や差別化ポイントが明確でなく、失敗に終わった背景を探る。

近年、カゴメはトマトを軸にした事業展開に戻り、トマトを中心とした野菜事業の拡大を図っている。

高度経済成長直後のバブル期、新規事業にガンガン投資も尻すぼみした多くの日本企業…「カゴメ」が“トマトの会社”から“野菜の会社”への変化を決めた理由

多くの企業は過去の失敗を教訓に新規事業開発を進めます。本記事では、中野正也氏の著書『成功率を高める新規事業のつくり方』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集して、カゴメ株式会社の例とともに、新規事業開発の分析方法を学んでいきましょう。

本記事では、身近でよく知られている企業を対象として、CFT分析※により新規事業の展開を分析します。取り上げる企業は、カゴメ株式会社です。

※顧客・機能・技術の3点を頂点とした三角形型のチャートを使った分析のこと。CFTチャートは、新規事業開発の担当者が議論を重ね、自社ならではの他社とは一味違う新規事業を考えるためのキャンバスとなる。

公開情報にもとづきながら、新規事業開発の推移をCFT分析を用いて読み解いていきます。これによりCFT分析の理解を深めていただきたいと思います。

1980年代に至るまでのカゴメ株式会社

カゴメ株式会社(以下:カゴメ)は、1903年にトマトソース(現在のトマトピューレー)の製造に着手し、その後1908年にトマトケチャップやウスターソースの製造を開始。1933年にトマトジュースを発売しました。1963年に社名を現在の「カゴメ株式会社」と改称。1966年には世界初となる、プラスチックチューブ入りケチャップを発売するなど、まさにトマト加工品のパイオニアであり、トップ企業といえます。

その後1973年に、野菜ジュースを発売するなどして商品の幅を広げ、1980年代には焼肉のタレやレトルトカレーなどを次々販売し、事業の多角化を推し進めました。しかし販売は振るわず、カゴメは不振の時期を迎えたということです。

この当時のCFTチャートを書くと、図表1のようになるのではないでしょうか。

トマトジュースやトマトケチャップなど、トマトを原料とする製品については、カゴメはトマト加工製品のパイオニアとして消費者から圧倒的な支持を得ていたと思います。トマトが健康にいいことから、ほかの食材とはひと味違う意味も感じられていたかもしれません。野菜ジュースもその延長上に位置づけられ、支持されたのではないかと思います。

これに対して、その後の新規事業として展開した、焼肉のタレなどの家庭用調味料、家庭用食品の事業、飲料事業、などは顧客に提供する機能が必ずしも明確でなく、競合他社の商品との違いがわかりにくかったのではないでしょうか。

CFTチャートを見ると、それぞれの事業をあらわす三角形が別々に独立する「おでん型」になっています。「トマトのパイオニア」としての機能を有するトマト関連の事業を除けば、顧客から見たときに、競合商品ではなく自社商品を選んでもらうための「顧客に提供する機能」「顧客から見た価値」や差別化ポイントを、明確にできていなかったのかもしれません。

また、顧客設定もあやふやだったのかもしれません。他社とはひと味違う特長や価値のある商品を、それを求める顧客に提供する、というエッジの効いた事業にしていければよかったように思います。

もっともこれはカゴメだけが責められることではありません。当時の日本経済は高度経済成長後のバブル時代の最中であり、旺盛な需要と潤沢な資金を背景に、多くの企業が新規事業開発に積極的に取り組んでいた時代でした。需要のある市場に進出すれば、一定の成果が得られることが期待されたのです。

最終的には失敗に終わった事業も多く、撤退した事業もありました。その理由は、その事業を需要があると思われる市場に安易に進出したからです。自社の強みを生かし、差別化した事業にできなかったために、競合他社に対して優位性が確立できず、競争に勝ち残れなかったのです。

近年カゴメは、トマトを軸に野菜全般へと事業を拡大する方向に舵を切りました。「本業と無関係の多角化はむずかしい。トマト一本槍でも限界がある」と気づいたからとのことです。