【社説】日銀追加利上げ 金融正常化慎重に進めよ

AI要約

日銀が追加の利上げを決定し、金融政策の正常化を進めた。

市場は予想外の利上げに驚き、円相場が大きく動いた。

日本経済の課題や物価の上昇に対するリスクが利上げの背景にある。

【社説】日銀追加利上げ 金融正常化慎重に進めよ

 金融政策の正常化にサプライズは要らない。市場との対話が十分だったかをしっかり検証し、今後に役立ててもらいたい。

 日銀は先日の金融政策決定会合で、追加の利上げを決めた。政策金利の無担保コール翌日物金利の誘導目標を0~0・1%程度から0・25%程度に引き上げた。同時に国債購入額を月3兆円程度に半減することも決定した。

 金利の引き上げは、マイナス金利政策を解除した3月以来となる。

 主要中央銀行は政策金利を0・25%刻みで上下させるのが一般的で、日銀の今回の利上げは最小限だった。

 にもかかわらず、追加利上げ決定後に外国為替市場の円相場は激しく動き、この日は1ドル=153円台から一時149円台まで急伸した。

 市場がこのタイミングでの追加利上げを織り込んでいなかったためだ。金融政策の変更で為替相場が大きく動くのは決して好ましくない。

 日銀が金融緩和政策を是正するのは既定方針である。今回は、6月の金融政策決定会合で示した国債買い入れ削減方針の具体化にとどまり、政策金利は据え置かれるとの予想が市場の大勢だった。

 植田和男総裁は6月、国債買い入れ減額が債券市場に及ぼす影響を考慮した上で、短期金利の設定をしていくと述べていた。

 同時に利上げすれば、国債買い入れ減額の債券市場への影響を見極めるのは困難になる。個人消費が低迷していることも追加利上げに否定的な材料とされた。

 こうした市場の予想に反するサプライズ的な利上げの背景に、歴史的な円安があるのは間違いない。

 一時161円台まで下落した円安基調が続けば日本経済にマイナスだとして、政府、与党の幹部や経済界から日銀に利上げを求める声が上がっていた。

 7月中旬に政府・日銀は円買いドル売りの為替介入を実施したとみられ、日銀も対応を迫られた格好だ。植田氏は記者会見で、円安による物価の上振れリスクが利上げにつながったことを認めた。

 さらに2%の物価安定目標を意識しながら今後も利上げを進める姿勢を示し、年内を含め複数回の利上げを視野に入れていることを示唆した。

 日本の金利水準は欧米に比べれば十分に低い。世界経済の変化に備えて政策金利を引き上げておくのは重要で、金融政策を正常化することに異存はない。

 1995年以降、0・5%以下の低金利に浸っていた日本経済が金利の上昇に対応できるのか。日銀は企業や家計への影響を見極め、慎重にタイミングを判断すべきだ。

 物価の上昇に比べて賃上げは力強さを欠く。個人消費は冷え込み、景気は足踏み感が強い。金融正常化を急ぎ、経済再生の芽を摘み取っては元も子もない。