CMだけじゃないハナマルキ4代目の戦略 泥臭く売った「液体塩こうじ」ヒットの舞台裏

AI要約

ハナマルキ(長野県伊那市)は、4代目の花岡周一郎さんが経営バトンを受け取り、独自開発の「液体塩こうじ」を広めるため、マーケティングに注力している。

ハナマルキは1918年創業の大手みそメーカーで、花岡家が代々経営。大豆の相場高騰などの厳しい状況下でも経営に取り組んできた。

技術力を強みとするハナマルキは、100年企業として積極的な挑戦と革新が企業文化に根付いている。

CMだけじゃないハナマルキ4代目の戦略 泥臭く売った「液体塩こうじ」ヒットの舞台裏

 「おみそな~らハナマルキ」というCMで有名なハナマルキ(長野県伊那市)は、4代目の花岡周一郎さん(41)が2022年、父から経営のバトンを受け取り、33年ぶりにトップを交代しました。2012年に発売した独自開発の「液体塩こうじ」を広めるため、花岡さんはそれまで得意としてきたマス広告以外にも着目します。社内勉強会、イベント、店頭での試食会、レシピ提供や「食のプロ」との対話など、きめ細かなマーケティングで、これまでに存在しなかった市場を切り開きました。

 大手みそメーカーのハナマルキは1918年に創業し、代々花岡家が経営しています。従業員数は290人。本社のある長野県のほか、群馬県とタイに工場を抱えています。商品アイテム数は約400、売上高は210億円(2023年12月期)です。

 花岡さんは子どものころ、お盆と正月は祖父の家を訪ねました。「家にはみその蔵がありました。ひんやり薄暗い蔵の中で、みその熟成度合いを確認して真剣に話す祖父や父を見て、あこがれたのを覚えています」

 大学を出てハナマルキに入社後、すぐに三井物産に出向。約3年半、みその原料の大豆の仕入れと販売に携わり、国際相場の見方や営業を学びました。2007年ごろ大豆の相場が高騰し、「ハナマルキの環境が大きく変わるタイミングだったので、家業に戻ることを決断しました」。

 ハナマルキに戻った後も経営企画を担当しながら、技術経営(MOT)を学ぶため、早稲田大学大学院に2年間通い、担当教授とイノベーションに関する共著も出しました。

 当時は今と同じく、原材料価格の高騰が経営を圧迫していました。20代後半で財務担当の部長だった花岡さんは「グループ会社のM&Aや人員削減などのリストラという、必ずしも前向きではない仕事をやりました」。

 ヒットCMを送り出し、商品も店頭にずらりと並ぶハナマルキの認知度は抜群です。それでも、花岡さんは課題も感じていました。

 「ハナマルキは家族経営で職人気質。素材とものづくりは大きな強みで、これまでのCMの印象から、あたたかいイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、お客様がスーパーで商品棚をみたとき、そうした企業イメージと結び付けて、商品を選んでいただいているのかが少し不安でした」

 みそのような消費財は、ライバル商品が同じ棚にひしめきます。外部環境の変化で値上がりしたり、類似商品が販売されたりしても、自社ブランドのファンが多ければ、選んでもらえる可能性が高くなります。

 100年企業であるハナマルキの強みは「技術力」と花岡さんは言います。それに加え、「創業以来、新しいことに挑戦する文化が、今日まで来られた理由の一つだと思っています」と言います。

 たとえば、創業5年後の1923年に東京事務所を開いて信州みその販路を広げたり、みそ業界で初めてこうじづくりを機械化したり、即席やカップ入りのみそ汁もいち早く商品化したりしたといいます。

 「素材とものづくりを大切にするハナマルキの企業理念を、より伝えるためにはどうしたらいいのか、今も模索している段階です」